「もちろん、大丈夫です」

「それでお願いします」

これで時間ができた、と仲山はある意味ほっとした。係員は、仲山と老人の後ろに並んでいた中年夫婦と思われる二人組をゴンドラの方へ誘導するために場を離れる。

「あの、クリーニング代と、あと時計の弁償についてお話ししたいのですが……」

「いやいや、大丈夫だよ。私にも孫がいてね。こんなことはしょっちゅうだった」

「しかし」

「時計も古くてね。今どき防水じゃないんだ。そろそろ買い換える時期だったわけだよ」

「おじいちゃん、なんで一人なの?」

突然そう凛が言い出して、仲山は再び焦る。

「こら! 失礼だぞ」

「でも今日ってクリスマスなのに」

「ああ、その通りだね。実は、死んだ妻がドリームアイに乗りたがっていたんだ。それで今日、運よく予約が取れたから」

「そうだったんですか……ますます申し訳ない」

「凛もね! チケットが当たったんだよ! だからお父さんが申し込んでくれたの!」

「よかったねぇ。いや、お互い予約できて幸運でしたな」

品のよい老人は仲山にそう会釈(えしゃく)し、にこにこしながらポケットから飴玉(あめだま)の袋を取り出した。

「いい子だから、これをあげよう。おじいちゃんからのクリスマスプレゼントだよ。でもね、明日になるまで絶対に食べちゃいけないよ。クリスマスイヴが終わって、朝になってからだ」

「うん、わかった。ありがとう、おじいちゃん、いい人だね」

凛は飴玉を受け取り、ポケットの中にしまう。

「何だか、すみません」

仲山は軽く頭を下げ、ついでに笑顔に変わった凛の頭を撫でる。トラブルが無事片付いたことで、少し気持ちが落ち着いたようだ。

「お客様、次のゴンドラがご案内できますが……」

戻ってきた滝口という女性係員が、どちらが乗るのかと暗に聞いてくる。

「ぜひお先に」

「いやいや」

譲り合う形になった仲山と老人に対し、滝口が言葉を挟む。

「それでしたら、実は次の次のゴンドラがシルバーゴンドラといいまして、六十歳以上の方だと二周回れるという特典があるんです。お客様は、ご予約時に年齢をご入力いただいておりますので……。ゴンドラ内のデザインなどに特に変わりはありませんが、どうされますか?」

「へえ、そうなんですか。なら、こっちが先に乗った方がよさそうですね」

「そうしてください。お嬢さんは、色々乗りたいだろうから、早く行きたいだろうしね」

「うん! 次はメリーゴーランドに乗るの!」

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