雪かぶりのクマザサは不思議がりました。冬の眠りはまだまだ深く長いはずであったのに、自分のからだに確かに感じるこのじんわりとした熱はどうしたことかと思ったのです。
「やっぱりだ。もう今日の冬は暖かい」
雪かぶりのクマザサは、自分が春の朝に目覚めつつあるのか、それとも冬の眠りのさなかにただ春の夢を見ているだけなのかがあやふやで、しばらくのあいだうつらうつらとしていました。でも本当は、クマザサはちゃんとわかっていました。もう何度、厳冬をこえて春の光を浴びてきたことでしょう。自分のからだの目覚めのときは誰に教えられずとももう十分にわかるほどには生きているのです。
けれども、生まれたばかりのひとしずくは寝坊すけで、目覚めの喜びを知らずにまだ夢の中におりました。
あれ、ひとしずくはどこにいるのかって?
ああ、ひとしずくは、クマザサの一葉にふりつもった雪の中におりました。といっても彼はまだ、本当の意味ではひとしずくではありません。長い冬のあいだにすっかり押しつぶされてしまった雪の結晶たち、まだ真っ白い六花たちの中にひとり、アリの頭よりも小さな口をめいっぱいあけてあくびをしたこがいるでしょう。このこが、私たちのひとしずくです。
「やっぱりだ。今日の冬は暖かい」
クマザサは、冬眠の余韻に浸りつつまた同じことを思っていました。
それもそのはずです。
長年クマザサに影を落としていたブナの樹が、枝先の雪の重みで冬のあいだにすっかり傾いていたのです。幸い、根全体でしっかと土をつかんでいたので倒木とまではいきませんでしたが、それでもこのあたりの森の景色はすっかり変わったように見えました。