アメリカで最初に慢性疲労症候群が発生したのは1934年と1935年のロサンジェルスだと多くの専門家の意見が一致している。ポリオ(小児マヒ)が大流行した頃に、ロサンジェルスカウンティ病院の198名の医師、看護師、医療技術者その他従事者にこの慢性疲労症候群が大発生した。

不思議なことに病院のスタッフだけが慢性疲労症候群に罹り、患者には感染がなかった。

ここに何か手がかりがあると思えないだろうか?

この病気がもたらす症状は困惑するものだった。患者はちょっとした作業で疲れてしまい、吐き気をもよおし、光がまぶしくなり、バランスがとれなくなり、やがて手足を上げることが困難になるマヒが生じ、呼吸が困難になり、頭痛、激しい痛みそれに不眠症になり、更には集中力を維持できず、記憶力も低下した。患者は上機嫌から急激に鬱に落ち込んだり、理由もなく泣き出したい衝動に駆られたり、以前好きだった人や物を嫌うようになり、その感情を抑えることができなくなる。

それはあたかも身体と脳が本人の思い通りにならず暴れているかのようだった。私がこれに関わりだしたのは2006年5月で、ある研究者が講演で、長年慢性疲労症候群を患った患者が非常に珍しいタイプのガンに罹る確率が高まっているとコメントしたのを聞いたときだった。

これはウイルスかもしれないと直観的に思った。ちょうどHIV(ヒト免疫不全ウイルス)がAIDS(後天性免疫不全症候群)を伴って、免疫システムが対応できないほど様々なガンや他の問題を引き起こして人間を死に至らしめているのと同じパターンかもしれない。

エイズウイルス(HIV-AIDS)は1980年代と1990年代に世界中を荒らし回った感染症であり、今日まで3500万人以上もの人の命を奪った病気で慢性疲労症候群の流行と双璧をなすものだ。

慢性疲労症候群は1980年代に爆発的に拡がり、最初はカリフォルニアとネバダの境にあるタホ湖周辺で1984年から1985年に大発生し、地元の高校の教員にまず感染し、その後サンフランシスコ、ロサンジェルス、ニューヨークの郊外へと移っていった。そしてそれぞれの地区から全国へ拡がった。当時、エイズウイルスは男性にだけ感染すると思われていたため、慢性疲労症候群は非エイズウイルスと呼ばれたりした。

エイズウイルスは数年間かけて患者を殺す。慢性疲労症候群は患者を生かしたままにするが、ウイルスは冬眠するような状態になる。この患者の友人や家族は患者が「元気そうに見える」とか「もっと外出して活動しないと」と言って「ストレス発散」させようとする。この2つの病気では患者に共通する免疫マーカーの多くに異常が見られ、それでいて症状が全く異なる。

慢性疲労症候群の患者は生きながらえるが、死ぬことで解放されたいと望むことが多かった。