二 海の悪魔『デビル』
ある日ハナコはお友達のミミちゃんと遊んでいた。
ミミちゃんは仲良しのマッコウクジラの女の子でハナコの妹分だ。二頭は海中のあまり深くないところで追いかけっこをしたりかくれんぼをしたりして遊んでいた。こういう遊びが子供のマッコウクジラにとっては深いところに潜ったり、海中ですばやく動いたりする練習になるのだった。ところがそこにデビルが現れて、ハナコとミミちゃんに襲いかかった。
「助けてー! 助けてー!」
二頭の悲鳴を聞いたお父ちゃんが駆けつけるとハナコとミミちゃんはもう少しでデビルに獲られるところだった。
「おのれ、デビルめ!」
お父ちゃんがデビルに体当たりした隙にハナコとミミちゃんは安全な場所に逃れた。
食べようと思っていたハナコとミミちゃんに逃げられてデビルは怒っていた。ハナコとミミちゃんを逃がしたお父ちゃんに向かってきた。
「こいつがデビルか。何て大きな奴なんだ」
初めてデビルを見たお父ちゃんが驚いたのも無理は無い。デビルの体長は胴だけでも三十メートル、足も含めると七十メートルを超える。胴も太く、二本の触手も太く長かった。しかし、お父ちゃんは逃げなかった。
「よし! 仲間の仇かたきだ。覚悟しろ!」
やる気満々でデビルに向かっていった。
オスのマッコウクジラの中でも特に大きい体長二十メートルのお父ちゃんと体長七十メートルのデビル。二頭の巨大な生物が海中で戦いを始めた。
お父ちゃんは周波数の高い攻撃用・狩猟用の超音波をデビルに叩きつけると再びデビルに体当たりした。
お父ちゃんに体当たりされたデビルは全身に激しい衝撃を受け、数メートル後方に飛ばされたがひるまず十本の足でお父ちゃんに巻きついた。そしてお父ちゃんを締め上げた。
お父ちゃんは今までこれほど強い力で胴体を締めつけられたことは無かった。デビルの強さを認識するとともに長期戦を覚悟した。そのためいったん海面に上がって呼吸をし、筋肉のミオグロビンの中に酸素を補給したかった。
お父ちゃんは脳油の中を走る血管に血液を送って脳油を温め比重を軽くし、全身の力を込めてデビルを引きずったまま浮上しようとした。
そうはさせまいと、デビルは十本の足に力を込めて、お父ちゃんを深海に引きずり込もうとした。
力と力、パワーとパワーの勝負だ。