【前回の記事を読む】カフェで出会った女性に義足のことを隠してしまった理由とは…
第2章 二人の出会い
義足と言えなかった思い
ある日、LINEの整理をしていたところ、ほんの少しやりとりしたトークルームを見つけた。そういえば、スポーツの話をしたな。俺は、思い立ったように連絡してみることにした。
「元気ですか? 最近何していますか?」
久しぶりのトーク開始で返事があるとは思っていなかった俺は、あっさり数分後に返信が来たことに驚いた。
「相変わらず仕事が忙しいんだよね。そういえば、サッカー以外に、何か他のスポーツしてたの?」
タメ口……。会ったときに俺の方が年下ですね、って言ったことを思い出した。
「高校時代に結構本気でテニスを……」
「そうなんだ。私も中学時代に軟式テニスをしていて、最近、硬式テニスをはじめたの」
「いいですね」
「でも勝負テニスをやってたからかな、テニススクールのラリーがなんだか許せなくて」
彼女は、負けず嫌いで、通っているテニススクールのやる気のないラリーが気に入らないと話した。
「本気でテニスやっていたなら、相手をしてほしいんだけど」
俺は、義足を隠していたことを後悔した。いずれはわかることなんだから、言った方がいいよな。
でも、義足のことを言えば、きっとこんな会話もできないだろうし、テニスに行くことも諦めるかも。
「テニス、いいね。最近ちょっと忙しいから、また今度行こう」
なんとなく、義足であることを言えずに先延ばしにしてしまった。
しとしとと雨が降る中、いきつけのカフェで彼女とばったり再会した。パソコンを相変わらずバシバシとたたいている姿を見つけて、俺は声をかけた。
「やっぱり仕事しているんですね」
「あ、パソコンね。東京出張から戻ってきたんだけど、ここで少し仕事してから家に帰ろうと思って。息子がいるから、家で仕事ばかりしている姿を見せるのもどうかなと思って」
「息子さんがいるんですね」
「そう、バツイチ子持ちなの。あ、もうそろそろ息子が帰ってくる時間。帰らなきゃ」
「外、雨ですよ。送りましょうか」
「え! 車? それは嬉しい」
駐車場に向かうとき、義足と気づかれないか気になってしょうがなかった。
俺は、サッカーの道具が散らかっている車の中をささっと片付けた。
家の近くまで送ったところで、俺は本当のことを言うことにした。
「実は、俺、足ないんだ」
「足って、足?」
「そう、足がなくて、義足なんだ」
「どっちの足?」
「右足が義足」
まあ、これでテニスに行くのも諦めると思った、次の瞬間の言葉に拍子抜けした。
「? 今どうやって運転してたの?」
「左足」
一瞬、彼女の言葉が止まった。ただ、よくある可哀想に思っている感じではなく、運転していた足をのぞき込んだ。
「それって、すごいね! 私は、左足で運転無理だわ。ねえ、その義足ちょっと見せてよ」
「いいよ。こんな感じ」
「え!!!! かっこいいじゃん。アイアンマンみたい!!!」
「そう?」
「その義足は何ができるの? 走れるの? 跳べる?」
義足に興味津々のようすで、矢継ぎ早に飛んでくる質問に驚いた。
「走る義足じゃないから」
俺は、ここでテニス行きを断ろうと続けた。
「テニスのことだけど、義足でテニスに行っても、球出しくらいしかできないと思うから……」
「でもさ、今さっき歩いてたよね。できそうじゃない? 球出ししてくれるだけでいいよ。行こうよ」