家に着く。昔を思い出したくなって学校のアルバムを取り出しページをめくった。

「あ、あの前川さんだ! やっぱり昔も綺麗、相変わらず綺麗だったなぁー」

アルバムの写真を指でなぞりながら、私自身を探す。小森……みなみ……小森……。あった! 何これ……? その写真は、グチャグチャにボールペンで消されていて、他の私の写真も同じように全部消されていた。

私は前川さんの横にいることが多かったみたい。でも何故か記憶がない。そして、私の顔がわからない。私の顔ってどんな顔だったかな? 鏡の前に立つと、メガネをかけた私。黒縁のフレームに、レンズには色がついているから、全然見えない。メガネを外したらもっと見えないし、自分の顔がわからない。自分の顔が見たい。私は、すぐに眼科に行き、処方箋をもらってコンタクトレンズを買いに行った。

私は、帰りのバスの中で眠ってしまったようだ……。

私がアルバムの中の自分の顔を消している。自分の顔が嫌いで嫌いで、泣きながら消しゴムで消して、その上からなりたい顔を描いて、消して描いての繰り返しをしている情景が見えた。ハッと目が覚めた。夢か……? 違う……。これは夢じゃない。

そうだ! 私が消したんだ。なぜあんなことをしたのだろう。覚えていない。家に着き、洗面所で手を洗い、人生初めてのコンタクトレンズをする。鏡にうすぼんやりと映っていた顔がハッキリと見えてくる。

「わー、可愛いじゃん……。この顔が私?」と、独り言。自分の顔を見て、すごく自信がわいた。

次の日。

コンタクトレンズをつけて初めての出社。いつもの出勤ラッシュ。でも一度も人にぶつからないで会社に着く。初めての経験。コンタクトに変えただけで、1日の始まりが全然違う。

「おはようございます」と挨拶をすると、会社のみんなが私をジーッと見て、

「お……おはようございます」と、初めて返答してくれた。うれしかった。

トイレに行くと、同期の横山さんがいて「コンタクトにしたんだね」と、初めて声をかけてくれた。うれしかった。