その場所は長良橋から右岸を少し下ったところにある国際会議場にあった。長良川堤防から会議場の屋上に上ることができる外階段がある。堤防から屋上までの高さは二十メートルほどあった。階段の段数を数えたら、中段の踊り場二ヶ所を含め百八段である。その屋上が悠子のお気に入りの場所であった。意外と、市民や観光客が立ち寄らないところも気に入った理由でもあった。

国際会議場は十数年前、岐阜市がコンベンション都市を宣言して建設された。西隣に高層ホテルが連結して建てられている。その屋上からの眺めはパノラマの絶景である。真下には東から西に向かって流れる清流長良川が見下ろせた。

少し上流には長良川にかぶさるように、絶壁を有する金華山がそびえている。

頂上に岐阜城の天守が見える。戦国時代、信長の居城であった。その右手、山麓下に城下町の面影を残す岐阜市内の町並みを見ることができた。

さらに、晴れた日には遠く名古屋市内の高層ビル群も眺められる絶好の場所である。

悠子はそこがいたく気に入り週末になると自然に足が向く習慣になっていた。職場では何かと同僚や上司との気遣いをしてしまう自分である。そんなわけで人がいないこの場所に来るとほっとした。

そしてもう一つは、この場所に来て信長のことを思いめぐらす習慣ができていた。