【前回の記事を読む】小学1年生で学力不振…勉強ができない原因は「母親の過干渉」?

第二条「形を求めすぎない」

イジメられっ子→自傷

私のところでB介君の面倒をみることになったのは、彼が高校(定時制)を卒業し、家に引きこもった状態になり、自傷傾向が見られるようになってからだった。どこにも行き場がなく、どうにもならなくて私のところに来たのである。

通常では引き受けかねるのだが、どういう性格の子か幼い頃を知っていた事と、繊細な彼がどうしてこのようになってしまったかを知っていたので、引き受ける事にしたのだ。

この時期でも、なお、Bさんは子供が何とか“かっこうをつけられる職業”に就くことに固執していた。B介君は小学校から最下位の成績が続き、入れる高校が皆無のために定時制高校に通っていたのである。

「普通の親」なら、あきらめるであろう。しかし、彼女はあきらめなかった。子供のことをあきらめないのは良い事だが、現実からかけ離れた“望み”を捨てないのである。

私は、「預ったからと言って、どこまで学力がつくか保証はできない」「B介君は知能が低いわけではなくて、低学力になっているのだから、その原因から直してゆかなければならない」このようなことを、よくよく話し込んだ。

B介君は私の事を知っていたから、私への警戒心は無かった。又、出かけて来れるのが嬉しかったのか、通塾してくることになったのである。彼には週に三日ほど通ってもらい、英語、国語、作文などを指導することになった。二、三回、通ってもらったあと、私はB介君に私の家に泊まるように勧めた。

Bさんとは、私が東京にいた頃の知り合いだったので、息子の喘息のために転居したため、千葉県の海の近い所に住んでいる今は、以前よりも、もっと遠くなり、片道で三時間近くかかったのである。B介君は、今の環境(家庭)から離した方がよかったし、遠方から来るための高額な交通費や時間の節約もあり、私の家に泊まるように勧めたのだった。

こういうことができたのは、私の家族の理解と協力が在ったことと、幼少の頃のB介君を知っていたからであった。彼は、おだやかで気立ての良い子で、どこか、ひょうひょうとしたような人柄の子だった。人間には生れつきの性格があり、いかなる悪環境の中でも、その輝きは失われる事はないのだ。見かけはどうあろうと、その魂の深奥(しんおう)に保たれ続けているのである。

彼には学習以前の問題として

①自分核を強めること

②自分の考えたことや感じたことに自信を持つこと

③それを臆せず表現できること

……このようなことが必要であった。要するに、三才児位からをやり直すのである。彼が本来的自己を取り戻すには、まず、自分に自信を持つことが、第一に必要な事である。B介君の低学力の原因は彼の知能のためでなく、母親の極端な過干渉による“考えないクセ”によって生れた自我脆弱のためなのである。