「さぁ、ご挨拶して」
咲也子に促されて、気後れしたようにおずおずと千景の前に現れた二人の娘は、緊張したように頬を紅潮させて千景に深々と頭を下げた。
「ちぃちゃんにはこれからずっとお世話になるんだから、ちゃんと言うことを聞いて、困ったことがあったら何でも相談するのよ」
最初の訪問から半年後、東京の一切合切にけりを付けて、めぶき屋に移転してきたこの頃になると、千景と咲也子はお互いを「さぁこ」「ちぃちゃん」と呼び合う仲になっていた。
「いきなり父親になってもらうのだから、少しでもちぃちゃんの負担を軽くしてあげなければといろいろ考えたのだけれど……」
そこで咲也子は女の子二人を自分の両脇に立たせて、身をかがめ、二人の頬に自分の頬を押し当てて、
「幸いなことに、二人を見分ける簡単な方法があるから、ちぃちゃんにも教えておくわね。ほら、こっちの子の下唇のすぐ右下にほくろがあるのがわかるでしょう?」
言われるがままその箇所を見やると、確かに小さくはあるものの、はっきりとした黒点の存在を千景も容易に確認することができた。
「この子が乙音よ。そしてほくろがないのが汐里。学校でも見分けが難しいと言われてるくらいよく似てるから、ちぃちゃんも苦労するだろうと思うけど、口元さえ見てもらえばすぐにわかるわ」
「ふふっ、これだけ瓜二つの遺伝子でも、さすがにほくろまではコピーできなかったと見えるね。でも心配はいらないよ、さぁこ。確かに見分けるのに多少苦労はするかもしれないが、そんなことはこの際たいした問題じゃない。俺はもともと子供が好きな男さ。でなけりゃ、スタジオのカメラマンなんか務まらないからね。そして愛情さえあれば、二人の見分けはいずれ俺にもできるようになるだろう。それにしてもこんなかわいい娘たちの父親になれるなんて、俺はなんて幸せ者なんだろう。本当に心の底から嬉しいよ」
千景のその言葉を聞いて、二人の娘はとても嬉しそうに頬を上気させた。まるで初恋が叶った少女ででもあるかのようなそのリアクションを見て、田舎の小学4年生はこんなにもピュアでかわいらしいものかと千景は内心ゾクッとした高揚感を覚えずにはいられなかった。