手足が異常に伸びた人間の形をした存在。機械兵だ。―ついに嗅ぎつけて来たか。突進してきた一体の攻撃をなんとか躱かわす。更に数歩飛び退いて奴らの姿を視認する。
―数が多い……。
無数の赤白い双眸が闇から此方を見つめている。蒸気を吐く音。手先に生やした鉤爪を機械兵が横薙に振り払い、エリサを殺意のこもった一旋が襲う。斜めへ身をよじってやり過ごすが背後から現れたもう一体の察知に遅れた。忍び寄った敵から振り返りざまの一撃を浴びた。体が飛ぶ。転げる。地で肌を削り建物に激突する。額に生暖かいものが垂れた。
―分が悪い。武器を持たずこの数を相手にするのは無理だ。エリサは負傷した身を奮い駆けた。
「ゲイツ!」
呼吸を荒げながら民家に向かって敵襲を叫ぶ。皆眠っている。このままでは全滅だ。しゃにむに庵へ走り続ける。受けたダメージに構ってなどいられない。歩いただけの道がどうしてこんなに遠いのか。走れど叫べど視界を過ぎる篝火の列は途切れない。
後ろから機械の不気味な移動音が追いかけてくる。追撃してくる機械兵の無慈悲な暴力を時に逃れ時に被り喘ぎながらエリサの足はようやく屋敷まで辿り着いた。だが味方の名を呼ぶ声は喉の出口で嗚咽に変わった。満身創痍で見上げた空には火柱が上がっていた。真っ赤に燃え盛るサヤの屋敷。ゆらゆらと機械の影が炎の中に揺らめいている。
(あれは……)
奴らの足元になにかが転がっている。
―「うっ」―
気づくと即座に目を逸らした。見境などない。奴らにとって自分達はただの獲物。機械にとって人間は単なる有機物。ずっと前から知っていた。無機物には感情が無い。関係ないから殺すのだ。奪ったそれにいかなる意味いかなる使命があろうとも。