運命の出会い
サーフボードを抱え、サーファー通りを歩いていく圭に、走って追いかけてきた千佳が大きな声をかける。
「待ってよ!」千佳は急いで走って追いかけていき、腕をつかむ。
「圭の部屋でコーヒーを入れてくれる?」
圭のマンションは海から少し離れたところに建っている。二人はエレベーターに乗って五階にある部屋に入っていき、圭はすぐにキッチンに立ち、サイフォンを使いコーヒーを沸かし始める。圭がキッチンの中から、来週仕事で行くことになっている海外出張の話を始める。
「千佳、俺は来週の日曜日から、仕事でアメリカに一週間の出張だ。ウインドサーフィンを教えられるのは、来週土曜日だけになるぞ」
千佳が聞く。
「圭、アメリカに出張って言うけど、今度はどこにいくの?」
圭は沸かしたコーヒーを、千佳の座る食卓テーブルに運んでいき、その質問にこたえる。
「今度行くところは、アリゾナ州の砂漠地帯にあるツーソン研究所だ」
本当はどこにいくかなど気にしていない千佳が、ひと言だけ声をかける。
「私のおみやげ、忘れないでね」
圭が笑ってこたえる。
「わかったよ」
圭は立ち上がって自分のマグカップを持ち、一人で寝室の中に入っていき、そこに置いてある机の前の椅子に座る。コーヒーの入ったマグカップを机の上に置いて、パソコンを立ち上げる。千佳も寝室に入っていき、とても不満そうな態度を示す。
「圭のところにきても、ちっとも私と遊んでくれないから面白くないわ」
圭はパソコンを使った作業に没頭し始め、全く返事をしようともしない。すると、突然千佳が海にダイブでもするかのように、机の横にあるダブルベッドの上に、ドスンと大きな音を立てて飛び込む。それでも圭はパソコンに向かったままだ。そんな様子を見て、千佳はベッドの枕をつかみ、圭の背中に向かって投げつける。その枕は背中に当たって跳ね返り、フローリングの床の上に落ちる。
圭はマグカップからコーヒーがこぼれていないことを確かめ、千佳を叱る。
「水着のままでベッドに飛び込んだら駄目だと、いつも言っているだろう」
プーとふくれ顔になった千佳も、負けずに言い返す。
「じゃ、今度は水着を取ってからこのベッドに飛び込むことにするわ。ここにいても面白くないから、私、帰ることにするわ」
千佳は自分を無視する圭に怒って、部屋を飛び出していく。千佳はそのまま玄関ドアから外に出て、エレベーターの前に立つ。圭はしょうがないなという顔をして千佳を追いかけていき、声をかける。
「帰るなら下まで送っていくよ」
二人は五階から地下にある駐車場まで降りていくが、千佳はひと言もしゃべろうとしない。
「チーン」という音で地下一階の駐車場に着き、歩き出す。地下駐車場にある圭の大型バイクの横には、新しい50ccの小型原付バイクが止められている。千佳はビキニ姿のまま、怒った顔でヘルメットをかぶりバイクにまたがる。圭が機嫌を取るように話をする。
「千佳のウインドサーフィン、ボードに立ってセールを立てるところまで、なんとかできるようになってきたよな。来週の土曜日はセールに風を受けて進むところまで教えてあげるよ」
千佳は圭を見ることなく、バイクにキーを挿し込んでエンジンをかける。千佳は怒っている。千佳は怒った顔をしてそのままバイクにまたがり、地下駐車場を出ていった。