眼球運動と脳幹

眼球は見ようとするモノを自動追尾して自動フォーカスします。無意識のうちに行われる自律運動です。モノを見るために眼の筋肉運動を自動制御しているのが動眼神経です。

近くのモノを見るときに、鮮明な網膜像を得るために行うピント合わせと、両眼で単一固視するための眼球の寄せ運動を「調節と輻輳」と呼びます。「調節と輻輳」の連係運動はオプトメトリー(生理光学と視科学)の理論体系の基礎になっています。

外界からの情報を脳に伝達する最前線で働く眼が、あたかも自らの意志でモノを見ているかのように感じられるのは、脳と直結した働きだからでしょう。人は目覚めて、生活を営んでいるあいだは眼で外界の情報を得ていますので、その間、眼球内外の眼筋と動眼神経は一時も休むことなく働いています。

眼球運動に関わる名の付いた脳神経には、動眼神経(第Ⅲ脳神経)のほかに滑車神経(第Ⅳ脳神経)と外転神経(第Ⅵ脳神経)があります。眼球運動によって得られた網膜像を大脳に伝える視神経(第Ⅱ脳神経)を数えるならば、主要な脳神経12対のうち3分の1が「見る」ことと「見える」ことに関わっています。

動眼神経核および動眼神経副核と滑車神経核は中脳に、外転神経核は橋にあります。延髄と共に中脳と橋は脳幹と称せられます。脳幹は人の生存の上で欠かせない自律機能を制御している部位ですから大変重要なところで、脳幹の働きが全くなくなってしまうと脳死になることから、生命中枢と呼ばれます。

自律神経の中枢であり、ホルモン中枢の脳下垂体が存在する視床下部は間脳にあり、間脳も脳幹の一部とみなされることがあります。脳の発生過程においては中脳と間脳は同根でありますので両者の間には切り離せないつながりがあるのでしょう。

3 「眼は命の窓」

生命の死の判定を行う方法の一つに、瞳孔の対光反射を調べることが知られています。これは脳幹反射の判定法の一つですが、動眼神経の反応を判定しているといってもよいのです。眼と生命のつながりを理解していただくために、脳死判定基準について触れてみます。

脳死の判定で行われる項目は、深い昏睡、瞳孔の散大と固定、脳幹反射の消失、平坦な脳波、自発呼吸の停止の5つで「脳幹反射の消失」については次のような判定法があります。

①喉の刺激でも咳込まない=咳反射がない

②角膜を綿で刺激してもまばたきしない=角膜反射がない

③耳の中に冷水を入れても眼球が動かない=前庭反射がない

④瞳孔に光をあてても瞳孔が小さくならない=対光反射がない

⑤のどの奥を刺激しても吐き出すような反応がない=咽頭反射がない

⑥(人形の眼現象が起きない)頭部を上下左右に動かしても眼球が頭部と同方向に動く=眼球頭反射がない

⑦顔面に痛みを与えても瞳孔が大きくならない=毛様脊髄反射がない

以上7項目中、眼の反応で判定するものが5項目あります。

脳死判定が生命の判定であるなら、眼は命の窓と言っても良いでしょう。