奄美大島への出発をいよいよ翌日に控えた夕刻の知事官舎。光三は美恵子を相手に、上機嫌でダイヤメの芋焼酎を楽しんでいる。
美恵子は手作りの肴を皿にとりわけながら、饒舌な光三に笑いかけた。島旅に発つ前は、いつでも遠足を控えた子供のようにテンションが高い。
「嬉しそうなこと。でも、長い船旅なんでしょ。海が時化ないといいですけど」
光三が首を振って、得意そうに言う。
「大丈夫、心配するな。ワシが晴れ男なのは知っておるだろうが」
一緒に外出するときの二回に一回は雨降りなのを口にしないで、美恵子は小さく首をすくめた。
「奄美は遠かったよ、やっぱり。ここまでもってくるのに、難儀したもんなあ」
「折角だから、楽しんできてくださいな」
京都生まれなのに島が大好きなのは、きっとご先祖さまの誰かが島人だったのよと冗談を言う美恵子に、光三は大笑いする。
「何を言ってるか。島人の血が流れているのは、そっちの方だろうが」
「たしかに、そうでしたね」
「次の機会には、絶対に連れて行くからな」
「待ってます。あちらで築家の皆さんにお会いになったら、よろしくお伝えください。築社長の奥さまには、手土産に薩摩焼の花瓶を用意してあります。忘れないで渡してね」