成長という木
純太は希望通りに都立西泉高校に入学した。一緒に登校するはずだった聡に代わって綾乃が一緒にいた。同じクラスになり、純太にとって輝かしい高校生活になるはずだった。
そうならなかったのは、自分でも理解できない事が次々に身に降りかかってきたからだった。
まず初めに、新しい教科書がいきなりトイレの便器に入っていた事。次に、ノートの間から死んだゴキブリが挟まって出てきた事。親しくなった友が少しずつだが離れていった事に気が付いた。
その度、綾乃は純太にお姉さん的な口調で何度も言った。
「先生に言ったら? 注意してくれると思うんだけど」
純太は、こんな事くらいでいちいち言うのも面倒だと思った。初めのころは誰がやっているのかが分からなかった。そんな事でいちいち騒ぐのは恥ずかしいと思っていた。
何を言っても無反応だった純太より、綾乃は同じクラスの北島美紀についての噂の方が気になった。
美紀は美人で頭が良かった。誰からも好かれていたが学校が始まって間もなく不登校になってしまった。あれやこれや原因を探っているうち、結果的には美紀の個人的な問題であると落ち着いた。そう言った学校側の説明を受け入れた。そして、綾乃は純太から距離を置くようになった。