郷里
私は福岡に帰ろうと思った。フラフラして普通に歩けないので、羽田も福岡も飛行場は全て車椅子移動だった。それ位、身体に力は入らずボロボロの心で帰った。
飛行機の中でずっと書いていた。書く事で気を紛らわせたかった。
福岡は何年振りだろう。会いたい人も行きたい所もたくさんあった。35年振りに会う職場で一緒だった友人。
「ミサが来るなら絶対に会いに行くね」
彼女は介護で忙しい日々を送っていた。その合間を見つけて駆けつけてくれた。彼女は介護で疲れた顔をしていたが、私達は会えただけでも嬉しかった。面白い話をして2人で笑った。彼女はギリギリまで居てくれて、帰りは彼女をタクシーで送った。
日頃からお世話になっている叔父にお礼を言いたかった。新しいビルになって初めて訪れた。ゴッドファーザーみたいな叔父には、会社を築き上げた存在感がある。記憶力が抜群な叔父は、自分の幼い思い出から一族のルーツを話し、叔父の生き様を聞かせて頂いた。
私はこの環境で育った事を本当に誇りに思った。時代は変われど、伝統があり、しかとした指導者がいるという事は素晴らしい。この一族で良かったと思った。
叔母に会うのは何十年振りだろうか。少し鼻のかかった優しい声。お墓参りをしに行くと話すと「お墓で会わない?」と言われた。
3月の朗読の舞台以来、身体の不調よりも、私は人の言葉に苦しんでいた。嫁いだ土地で長年付き合ってきたあの人の言葉は、私への妬みだったと思う。
裏切られた事はどうしても許しがたかった。今年は若くして父が亡くなった年である。不思議と父母の顔が近くにあるので、あなたももう苦しまなくていいからいらっしゃい、と言っているみたい、と叔母に話すと「それはね、おばちゃまやおじちゃまは傍でみさこちゃんに『がんばれ』って言って笑っているのよ」と言った。