雪
一面白銀 白銀の世界
過ぎた腹立たしいことも
ちっとも詫びないあの人への恨みも
少しの行き違いから出る涙も
何事もなかったように覆い尽くした
どこにも出ようがない不条理な思いは
氷塊となり 押しつぶされ
白銀の下に隠されてしまい
もう視界から消え去った
見えない 見なくてよい
記憶が彼方に消えた老人のように
心が安らいでいく
白銀の道を歩いてみる
誰も通らない白い道にわが足跡だけが残る
その下にマグマのような思いが埋まっている
埋もれた記憶を引きずり出し
再び怒ってみようか
いやいや 独りよがりの怒りなど
よどんだ霞にすぎない
それでいい それでいいと心が言う
幾多の時を通り過ぎ 今やすっかり老人
わずかに燃える火を 怒りなど愚かな感情で
燃やし尽くすことはない
春が来て雪がとけたとて マグマのことは
すっかり忘れているに違いない
何もなかったことにしてぴちぴちと流れ
緑の若葉を誘い出すだろう
私はそれを静かに待てばいい