「実は、山田さんが行った交換学生のツアーが今年もあり、あなたにはホームステイ後の二週間のツアーの添乗に行ってもらうことになりました。まあ、多くの先輩を差し置いて指名することには賛否両論ありましたが、現在社内の女性でこのような大型ツアーに行った経験のある人はいないので、それなら経験のある山田さんに行ってもらおうということになったのです。もちろん一人ではありません、一台のバスに二名の添乗員が乗ります。山田さんは、私とペアになってもらいます」と、支店長。

真知子は入社時に、いずれ添乗に出てもらうが、先輩社員がまだ行っていないので早くて来年になると聞かされていた。この添乗は異例の抜擢であった。

「ただし、このことは、出発する前月までは黙っていてください。他の社員が気を悪くするかもしれないからね」と課長。

「分かりました。足手まといにならないよう、がんばりたいと思います。支店長よろしくお願いいたします」

数日後、先輩に東南アジアのビザ申請に関する書類の書き方を教えてもらおうとしたところ、「山田さん、先輩を差し置いて添乗に出るぐらいの人なんだから、こんな書類簡単よね。自分で作りなさいよ」とふくれっ面で言われた。

なんだか皆がよそよそしい。あのことは社内でヒミツのはずだったのに、どうやらどこかから漏れたらしい。これでは仕事もできないと途方に暮れていると、田中係長が小さい声で言った。

「誰かが皆に話したようだ。さっき対策を練ったから。今年中にこれまで海外に出ていない女性社員を全員何らかの形で出すようにする。今、研修の話がいくつか来ている。多少無理をしてでも皆をはめ込むから、しばらく我慢してくれ」

「はい分かりました。大丈夫です」

その後も相変わらずのいじわるが続き、仕事ははかどらなかった。確かに入社早々の新人が夏に添乗なんて、先輩から見れば許せないに違いない。その気持ちも分かる。真知子はそう思って、なるべく気にしないように努めた。