冤罪 その一
庭先で捥いだスモモをかじりながら何時ものように母屋から少し離れた路上に面した庭に出て、夕映えを眺めていた。
向うから近所のC姉さんと3人ほどの女の子たちが急ぎ足で私に向って近づいてくるのが見えた。何か変、といぶかる間にたちまち取り囲まれてしまった。
いきなり、C姉さんが(私の人形を返せ、おまえが私の人形を抱えて裏口から出ていく所を見た人がいる、今すぐに人形を持ってこい)と凄んだ。
身に覚えがないので、人形なんて見たこともない、知らない、と言った。すると声を荒げて(ウソをつくな私の人形を早く持ってこい)の一点張りで突き飛ばされた。
蹴られ、小突かれてボコボコに殴られた。
やっとのことで逃げ帰り、ことの顛末を祖母に伝えた、祖母は驚き(これは、子供たちのできごととして、見過してはならない! 後々までに及び盗人扱いをされて、取返しがつかない大変なことになる)と言った。
そして祖母は取急ぎC姉さんの家に出向き一件の説明を求めた。
すると、隣家のt子が(私がC姉さんの手作りの人形を抱えて裏口から出てきた所を見た)と具体的に証言したのでC姉さんは、それを信じてしまった。
そこから、祖母の強く早い追及によって、人形を盗んだ犯人は証言者のt子と判明した。
こうして私は祖母の迅速な気転に助けられて盗人の汚名を免れた。
恐ろしく長い一日が暮れた。
t子の虚言から私は、いとも、かんたんに盗人にでっち上げられた。
こんなにも恐ろしいことが、何時でもどこでも起こり得るのです。
計り知れない恐ろしさを知ったのは小学二年生時であった。
この一件後、C姉さんから謝罪の言葉もなくて私を無視するようになった。
この体験は強く心に刻み込まれた。
親になって、娘たちにはウソは泥棒のはじまり、と教えてきた。
人のものにはふれるな、エンピツ一本でも届け出る!と言ってきた。