前編
ユジンの母親と挨拶を交わし、父親の墓参りを済ませた一行は、郭が納めた武の墓標へ向かった。
「武さん、わかりますか? あなたのお父様とお母様ですよ……」ユジンは嗚咽した。
「武、ゴメンネ! あなたを置き去りにした母です! 許してください! 許して……」
「武! 立派になったんだな。わしは何もしてやれなかった……。しかし聞けば真直ぐに生きたお前がいた。誇りに思います。人生は長短ではない。過程ではないか。郭さんに礼を尽くします。武、ありがとう」
しばらくしてユジンの母親が、
「みなさん。実はユジンが武さんを我家に連れて見えたとき、私は一目で娘の気持ちが理解できました。戦争で混乱していた時期でもありましたのに、前を向いて懸命に生きようとする姿がありありとしていて、この方ならと……。
父親はかなりひどい言葉を彼にぶつけました。しかし彼は『今の自分が未熟者だと言われるのでしたら精進して出直します。ですからユジンさんとお腹の子は僕に面倒を見させてください』と、キッパリ言ってくださいました。本当はあの人も許したかったのですが、娘の軽率な行動で武さんに迷惑をかけたと思っていたのですよ。
そして娘と子供は李の家で引き取り、武さんには新しい人生を再び歩んでほしいと思っていたはずです。その後は彼が軍で働く様子を郭さんから聞いたりして気にしていました。『母さん、武は意外とやるぞ。あれなら工場を継いでも大丈夫だろう』なんて気の早いことも言っていたのですよ。男兄弟はソウルで自立していましたので。もうその工場もなくなりましたけど」
ユジンの母親は言葉を噛み締めながら話し終えた。
「お母様、有難い言葉です。武の人となりが、よく分かりました。さてこの先のことですが、どのようにお考えですか?」
と弘が言う。
「と言われますと。サンマンを日本へ?」
「と言いたいところですが、九歳のサンマン君を日本で育て上げる自信は私たちにはありませんし、資格もない」
「お父様、お母様、心配なさらないで。サンマンは日に日に成長していきます。いずれ皆で日本に行く日も来るでしょう。せっかく絆で結ばれたのですし、私たちは武さんに近いところで暮らしたいのです」
「そうですか。わだかまりにならないように思いを聞いておきたかったのです。私たちは益田へ帰って途切れた人生を振り出しに戻します。もちろんおやじに会って相談しなければと思っていますが」
神戸を出港した客船は四月十八日未明、僅かの間ではあったが強烈な風雨に曝されながら航行を続けていた。『二十二時到着か。オンボロ客船め、もっと早く走らんかい』と元はつぶやきながら里心がプサンにあることを不思議だと思った。
二十二時をかなり過ぎて客船はプサン港へ滑り込んだ。下船できたのは二十三時を回っていた。タクシーを拾い自宅へ向かう。ヘリはまだ起きていて少しやつれた元を笑顔で迎えた。
翌朝、ユジンに連絡をして弘の居場所を聞く。ヘリに同行を願ったがアッサリ断られた。
仕方なく車でヒョナの店に向かう。