純太はやっと聡の傍に駆け寄って、体を起こし様子を見た。鼻血は口元まで垂れてきて、開いた口の中に入った。前歯が血で赤くなった。

「ちぇ、何だよ、あいつ」と言って聡は鼻血を手の甲で拭った。

「もうあいつの物まねなんかやめた方が良いよ」

純太は持っていたハンカチで聡の鼻や口の周りを拭いた。ハンカチは血で赤くなった。

「あいつが怒ったって何でもないさ。あいつが怒ったって事はそれだけ、俺の物まねがあいつに似てたって事だろ?」

「だけどさ、やめないと何が起こるか分からないよ。本気で怒ってたし」

「平気さ。なんだよ、純太。お前、あいつの味方なのか?」

「違うよ」と、強く否定したが、少しも怖がっていない聡とは違って純太は少し怖くなった。

「あいつの兄貴はいじめにあって空手を習ったらしいけどさ。あいつはその兄貴に空手を習っているだけだし。大した事ない。威張りたいだけの奴。頭、からっぽ」

と言ってから

「俺、ホントはもう、物まねは飽きてきて、次にやる事考えていたんだけどさ。こうなったら徹底的にやってやるぞ。負けてたまるか。あいつは怒る時って、口がこう、右上がりになる」

聡の頭の中はもう、卓也のまねの改善点について考えを巡らせていた。俺は聡のお笑いに対する本気度を理解できなかった。

いくら卓也が空威張りだとしても、あの足蹴りを見たら恐ろしくなる。聡と一緒にいると純太にも災いが飛び火してきそうだ。純太は卓也の餌食にならないように、聡と少し距離を置くべきだと考えた。

卓也はそれから事あるごとに聡に威嚇してきた。卓也は聡の笑いを受け入れられなかったし、そんな度量もなかった。