第一章 アオキ村の少女・サヤ

「……ずいぶんと、元気な人達ですね、皆さん」

ゲイツが言った。

「こんな日もたまにはあります、ねえカズマ」

「いやねえよ」

「だってカズマが言うの遅いから……」

「俺のせいにすんな」

「そんなことより、お二人はどこから来たのですか?」

サヤはこちらへ振り向いた。カズマと呼ばれる少年がバツの悪そうな顔をしているがエリサの隣でエヘンと咳払いする声がした。

「メルセオ=ボトムって地域です。海を渡ってここガナノ=ボトムを南下してきました」

「ということは山の外を知ってるのですか」

「オフコース」

「教えてください!」

最高司祭者は身を乗り出した。

「しかしサヤ様」

「旅人さん、教えてください。この世界には、なにがあるのですか?」

大言壮語をさせればゲイツの右に出るものはいない。これまでの冒険譚を、彼はさもお伽話のように語った。砂の海、火を噴く山、巨大な宗教建築……。無論エリサも共に体験してきた話であるからゲイツが嘘を喋っていないのは確かだと分かる。ゲイツの語りをエリサは黙って聞いていた。

しかしその注意は物語に目を爛々と輝かせる少女・サヤに向けられていた。

―興味を惹かれる。

己より年若き身でありながら文化集合体の長を務め、更に自然霊験と通じる力を持つという奇特な幼子。怪異的な存在であるのは初めて見た時から感じていた。その気配が……今ばかりは感じられない。彼女に年相応な瑞々しさを感じる。瞳に不穏な(かげ)りは差していない。

(気のせいだったか?)

あまりにも純粋で無垢な顔をしている。仮に思い過ごしだったとしたら自分はなぜ、あのような感覚を覚えたのだろうか。

周囲が敬虔(けいけん)な姿勢を示していたから? それは彼女の力が事実である裏付けでもある。多くの人心を一手に掴むのは容易ではない。

この村で最も尊い命。はたしてサヤが自称した語感の響きに囚われているだけだろうか。