「もうちょっと飲まないか?」
今日は珍しくショウタが二軒目に誘ってくる。驚いて彼を見ると、顔が赤くいつもより酔っている気がする。
「え、うん。いいけど……」
大丈夫? と聞く前に知り合いがやっているというバーのことを話し始めたので、体調の確認ができないままになってしまう。
そういえば、私はいつの間にか敬語を外してショウタに接している自分に気付いた。直接言われたわけではないが、敬語で話さないことに関して彼が気分を害する様子もないし、自然に距離が縮まっているのかなと勝手に嬉しくなってしまう。私よりいくつか年上のはずだが、年の差を感じさせない気を張りすぎずに隣にいさせてくれる空気感も彼の魅力のうちの一つなのだろう。
やけに楽しそうな顔に気を取られ、すぐそこだから早く行こうと何気なく手をつながれたことに気付いたのは、店の前に着いて階段が狭いからどうぞお先に、と手を放されてからだった。
店内はこぢんまりとしているが、ほどよく明かりが灯っており、たくさんのお酒の瓶が並んでいて隠れ家のような場所だった。カウンター席に座ると、バーテンダーが嬉しそうにショウタに挨拶する。ショウタは私のことも紹介してくれた。
「薬剤師さんなんだよ、風邪をひいたら相談したらいいよ! 優秀だから!」
我が子を自慢するかのように言われてくすぐったくなり、照れ隠しで早口に答える。
「薬剤師ではあるけど、薬局とかで働いているわけではないし……」
「でも、薬剤師免許はあるんだから同じ!」と私の背中を軽くたたく。
やっぱり今日のショウタはいつもよりテンションが高い気がする。ふと、カウンター越しのバーテンダー、横井さんに目を向けると、薬剤師という言葉を聞いた瞬間ぎくりとしたように目を見開いた気がした。どうしたのだろう、私が薬剤師であることが解せないのか、他に何か理由があるのか。だがすぐに朗らかな営業スマイルでメニューを聞かれる。私が飲みたいものを伝えると二人は少し驚いたような顔をした後、ショウタは笑顔で俺も、と言う。
「本当にこれでいいの? クセが強いから、これが好きな女の子に初めて会ったよ」
そう言いながらラフロイグのロックを置いてくれる。ショウタと乾杯して口に含むと、スモーキーな何ともいえない風味が鼻に抜ける。うん、これこれ。美味しそうに飲む私を見て、二人は苦笑していた。続けて、横井さんがおつまみにらっきょうを出してくれた。
「砂丘らっきょうといって、地元の特産物なんです。よければどうぞ」