「熊岡さん、私からも一つ、お聞きしていいですか?」
手を前で組み、少し俯き気味で、ずっと何かを考えていたらしい伏見が、名刺をテーブルに置きながら言った。
「はい、なんでしょうか……」
「三輪葵さんが、カシマレイコという女性について、何か話しているのを聞いたことはありませんか?」
「カシマレイコ? いえ、聞いたことはないですが、誰ですか……?」
「伏見さん……!!」
思わず声を上げた谷山を右手で制すと、伏見は続けた。
「カシマレイコというのは、ある有名な都市伝説で語られる女性の名前です。カシマさんと呼ばれることもあります」
「都市伝説、ですか? それが何か……?」
「ご存知ないなら、けっこうです。一応、聞いておきたかっただけなので」
「待ってください……!! その都市伝説が、葵と何か関係があるのですか?」
「最近ニュースでも騒がれはじめてるから、ご存知かもしれませんが、今年の1月……つまりは先月の半ばから今に至るまでの約一ヶ月の間に、この地域で行方不明者が複数出ています。その件に、カシマレイコが関係しているという話があるんですよ」
「そのカシマレイコという人が、葵を誘拐したかもしれないってことですか……?」
「分かりません。捜査情報と言えるものでもない、警察が公式に捜査対象にするような話でもないですからね」
「そう……ですか……」
「では、失礼します。先程谷山からもお伝えしたとおり、何かあれば、連絡してください。どんなに些細なことでも、ありえないと思うようなことでもいいので」
「はい……」