【前回の記事を読む】リモートワーク前も、職場でのコミュニケーションは存在したのか?

第2章 リーダーシップと動機づけ面接を実装する

第1節 リーダーシップと動機づけ面接の実践的理解

2 関わる~リーダーシップのスタート地点

まずは、相手の「状況」「思考」「感情」「価値観」を知るところから始めてみましょう。そのための第一歩が対話です。例えば、なんとなく元気がなさそうな山田さんに対する会話を見てみましょう。

川野主任1「最近、元気がないようだけど何かあった?」(開かれた質問で、相手の思いを探索する)

山田1   「ちょっと気になることがあって……」

川野2   「困っていることがある……」(言葉の言いかえで、こちら側の理解が適切かを確認する)

山田2   「ええ、まあ……」

川野3   「なんとなく話しにくい感じ……」(相手の感情を推測して、確認する)

山田3   「……」

川野4   「よかったら、少しだけ話を聴かせてもらってもいいかな?」(選択権を相手に渡す。)

ここでのポイントは、こちらの気遣いを示しつつ、相手が話してくれることを待つ姿勢です。また、川野2、3では、相手の言葉を確認するという作業を行っています。関わる過程で、対話にほんの少しだけ時間をかけることで、関係性が大きく変わってくるのです。

3 あなたの世界と彼の世界~世界は一つではない

ここで、一つの寓話を紹介したいと思います。

「ある冬の日、一人の旅人が見渡す限りの雪原を、馬に乗って進んでいます。冬の日暮れは早く、太陽は西の地平に沈んでいこうとしています。やがて、夕日の残照も消え、暗闇が周囲を支配しようとする刹那、はるか彼方に微かに民家と思しき灯りが見えました。ようやくの思いでその一軒家にたどり着いた旅人は、主に一夜の宿を乞いました。主は、旅人にどうやってここまでたどり着いたのかを尋ねると、驚きのあまり言葉を失ってしまいました」

さあ、この家の主人が驚いた原因を考えてみてください。

いかがでしょうか。皆さんには、主の驚きの原因がわかりますか?

実は、この旅人が歩いてきた雪原の下には大きな湖があったのです。旅人が雪原と思っていた場所が、凍った湖の上に降り積もった雪だったというわけです。いつ割れるかもしれない湖の上を渡ってきたという、あまりにも大胆な旅人の行動に、驚きのあまり言葉を失ってしまったということです。

この寓話が示唆しているのは、あなたが見ている世界はあなただけのものだということです。同じものを目にしていても、あなたと私に見えているものは違うし、それは、どちらが正しいか間違っているか、優劣をつけることのできない、それぞれの個人に固有のものなのです。

心理学では、個人が自身の思考・感情・価値観に基づいて語る、その人から見た世界のありようを「ナラティブ」と呼ぶことがあります。

「関わる」とは、「あなたのナラティブを聞かせてください」「あなたに見えている世界を教えてください」というメッセージを送ることなのです。