ありがとうの反対語
日も沈みディナーを済ますと同じくビーチ沿いに隣接するバーで二人は話し出した。夜の時間帯のほうがなぜか、深い話ができそうなのはなぜだろう。変人ポーはウイスキーグラスを片手にこんなことを聞いてきた。
「ありがとうの反対語は何か、わかるかい?」
ひどく軽い感じで聞いてきたわりには、得体が知れない質問だった。
「ええと、ごめんなさいかな?」
「いや、違う」
「だよね、父さんが質問するってことは何か意味があるんだよね」
「……」
変人ポーは闇夜を見つめながら黙ってグラスを傾けている。
「結構です、かな?」
「それも違う」
しびれを切らした変人ポーは自分から答えを解説し始めた。
「いいか?これは大事なことだからよく覚えておくんだ。ありがとうの反対語は〝あたりまえ〞だ。これは、ありがとうという文字が〝有り難う〞と書くのを見ればわかる通り、有り難いから来ている」
「そう言われてみれば時代劇とか見てると有り難き幸せー、とか言ってるのを見たことがあるよ」
「そうだ、ありがとうの語源はその有り難しから来ていて、つまり珍しい、滅多にないという意味だったんだ。だから当時のサムライは滅多にないことで幸せです、有り難いことで幸せですという言い回しで感謝の意を伝えてたんだな。それは良いとしてその反対の〝あたりまえ〞……」