息子は、以前「お父さん、僕はなぜこんなに大変なことをしなくてはいけないの?」と愚痴(ぐち)をこぼした。

それに対してご主人は、いつもの屁理屈で

「いつ地震や津波が来るか分からない。そして、たとえ北朝鮮と戦争になっても生き抜いていく強い精神力と生きる技術を身につけなくてはいけないんだ」

と諭さとした。しかし、「子は親に似る」というが、息子の方も

「でも、地震や津波や北朝鮮との戦争で、食料のお米が流されたり爆弾で吹き飛ばされてなくなったらご飯を炊けないじゃないか!」

と屁理屈で応戦した。それを聞いたご主人は一瞬怯ひるんだが、いい考えが思いついたらしく、

「お米が流されても、ドングリや野草を見つけて煮にて食べればいいじゃないか。屁理屈を言うな!」

と反論した。

「……」。

これには、小学生の知能では反論する論拠が浮かばなかったらしく、息子は渋々(しぶしぶ)納得した様子だった。ご主人は、自分が息子に屁理屈を用いて諭しているのに「屁理屈を言うな!」と息子をたしなめているのだから質たちが悪い(笑)。

とは言いつつも、息子は中学一年生の夏休みに山口県のきらら浜という海岸で九日間行われた「日本ジャンボリー」という日本中のボーイスカウト約一万四千人が参加するテント生活を体験した。

そして極きわめつけは、中学三年生の夏休みに、やはり山口県のきらら浜で十二日間行われた「世界ジャンボリー」という世界中のボーイスカウト約三万四千人が参加するテント生活も体験した。息子がテント生活を終えて家に帰った時は、興奮しながら

「楽しかった。もっとテント生活をして世界中の人と交流したかった」

と語ったぐらいだから、いつの間にか野性的に生きる醍だい醐ご味みを味わい、楽しさを知ったのかもしれない。結局、ご主人はぬくぬくとした親元からあえて引き離してあえて過酷な体験をさせたそうだ。