そこで三時間待ち、いよいよベルファストへ向けて飛行機に乗り込んだが、日本人乗客は我々だけのようだった。そして現地時間十九時二十五分、ベルファストの地に初めて降り立った。飛行機の窓から見える風景は、日が暮れて闇だった。
だがその闇の中で、空港を包み込む淡い静かなイルミネーションがとても幻想的に見えて、どこか愛おしく、懐かしく感じられる。その静けさの中にある、淡い幻想。本当にかつてこの地で、人と人とがいがみ合う紛争などあったのかと思うくらい、今は落ち着いているように感じられる。
この不思議な空間と時間のコントラストに、私の心はもうすでに、この街の雰囲気に魅了されていた。週末金曜日、十月三十一日ハロウィーンの日、周りの搭乗客たちも浮かれているように見えたのは、私だけだったのか。皆、目的地に急いでいるように見える。私にとって北アイルランドは初めての地である。飛行機が着陸し止まると、すぐに私の携帯電話が鳴った。
「健、ゲートにいるからね!」
ロバートであった。
「今行くよ、ロバート!」
こう答え、私と井戸はゲートの方へと向かった。現地時間二〇一四年十月三十一日金曜日夜、その人は私の目の前に、水色のポロシャツを着て立っていた。どこか懐かしさを感じるロバートの姿が目の前に! 私はロバートと抱き合い、初対面を喜び合った。
「ロバート! 会えて本当に嬉しい!」
「ようこそベルファストへ、健! 待っていたよ!」
それ以上私たちは言葉にならなかった。分かっていた。このお互いの温もり。感じていた。このお互いの十一年分の友情を! 今ここに全てがある。私は何とも言えない感動を覚えた。その後私たちは、ロバートの家ではなく、ショーンの友達の家に案内された。
家主のトム・ライアン夫妻は親戚の不幸があり不在であったが、ショーンから私たちのことを聞いて、部屋を貸してくれたのである。そこには、ショーン・オハラの姿もあった。また地域の人たちも我々を歓迎してくれた。食事をすませ、私とロバートは同じ部屋で寝ることになった。夜遅くまで私とロバートは話していた。
「ロバート、どうして手紙をあの時から送ってくれなくなったの」
私は意を決し、こう質問した。
「健が引っ越したと思ったからだよ」
予想してない回答であった。