【前回の記事を読む】「海は青いし、でっかいしいいことづくめさ、回遊は。」…ブリのおじさんが教えてくれたこと
(5)父と息子
「ぼうや、とうさんのこと、すきかい?」
「うん、だいすき! これ、ぷれぜんとだよ、おたんじょうびに、とうさんが。ほら、ね、かっこいいでしょ?」
坊やのコロンとしたおなかには、しなやかで、黒びかりする海藻のベルトが。
「かっこいいでしょ? これ、うつくしい白い鳥からもらったンだって。これ、ボクのたからものなの」
「うん、なかなかかっこいいじゃないか」
それはついこの間のことでした。その日、回遊のとちゅうで泳ぎの得意な父さんは、坊やとかぁさんの、入り江の海にたちよりました。
「ほら、海藻のベルトだよ」
そう言って、父さんはこんな話をしてくれました。
ある日、潮の目にただよう流れ藻の上に、一羽の白い鳥が翼を休めていました。その翼はま昼の日の光をあつめ、海の青さにも空の青さにも染まることなく、いっそう白く輝いていました。このあたりの海では決けっして見かけたことのない、美しい鳥でした。白い鳥は、仲間といっしょに近づいてきた父さんの鼻先に、くわえていた海藻のベルトをぽとりと落として翔び去っていきました。白くて長い首をまっすぐに西の空へ向けて。ほんの一瞬のできごとでした。
「お守りにしていつもおなかにしめていなさい。あの時、ふしぎな白い鳥からもらったのだからね」
「はい。じゃ、これをおなかにしめて、とうさんとおすもうしようよ」
「よし、本気でかかってこい」
かぁさんもいそいそやってきて、
「はっけよ~い! のこった! のこった!」
ころころの坊や、父さんめがけてパシッと体当たり。やる気まんまんです。しかし、北の海の荒波にきたえぬかれた父さんのからだは、びくともしません。坊やは、全身コリコリになって、何回もぶち当たる。すると父さんのからだは、ますますキリリと引きしまり、しかもしなやかで、おまけにぽかぽかあたたかい。
「よし、ヘンシ~ン!」
「なかなか強くなったね、ちょっと見ないうちに」
父さんは大満足。
「さいごのいちげき、とうさんいくぞ!」
全身でドドーン! と、その時でした。海藻のベルトが、キュッ、キュ、と小さく鳴なったのです!! するとどうでしょう、坊やのまるいおでこに、ぷちっと汗がふき出してきて、熱い血が、からだじゅうをかけめぐり、なんと、あたらしい力がむくむくと湧いてくるではありませんか。