【前回の記事を読む】「ここ、どこかなぁ」広い海で迷子になったブリの坊やの物語

(3)海の川

遠くにひとすじの川が流れています。

海の川は銀色にかがやきながら、青い布のようにゆらりとひろがったり、急にするどい刃は物もののように細ほそくなったかと思うとふっと波間に消えたりしながら、少しずつ、少しずつ近づいてきます。

「あッ、なぁんだ、へんな川だなぁっておもったら」

それはりっぱなブリの大群でした。からだの引きしまった銀色のおとなのブリの大群が、青い大波を切り裂きながら近づいてきたのです。

「やった! なかまだ!」

安心したとたん、坊やは、コチコチにきんちょうしていたからだの力が抜けて、くにゃっとなってしまって。でも、〈なんだかへんだよ!〉

なぜかブリのおじさんたち、みんないっせいにだまりこくって目はらんらん、口はほそく開けたまま、わき目もふらずに、坊やの横をぐんぐん通り過ぎていくではありませんか!

おくちパクパク、えらぶたギギギ

ざぶざぶざぶん、ざぶざぶざぶん、

おくちパクパク、えらぶたギギギ

ざぶざぶざぶん、ざぶざぶざぶん

坊やは水しぶきの勢いに押し流されながら、なんども声をかけます。しかし、聞こえないのでしょうか、

〈ボクのこと、ちっちゃいからみえないのかなぁ〉

やっとのこと、この大きな群のいちばんしっぽに、まるまると太った、目のやさしいおじさん。

海面に、ぽちょん、と顔をだしている坊やに気づき、びっくりして声をかけました。

「おっ、ボクまいごか! こんなところにひとりぼっちでいたのか、まごまごしてると、でっかい魚にパックリ食われちまうぞ、さ、さ、早くこっちへおいで!」

ぐいッ、と引っぱられて大きな群のなかへ引きずり込まれたとたん、坊やもたちまちずんずんずん、流れにのってずんずんずん。

(4)ブリ道ブリみょうり

「おじさん、あそこの砂、いま、うごいたよ」

「カレイだよ、砂にはりついて、いつも知らんぷり。だが、腹は白いからたぶん、こわがらなくてもだいじょうぶかな? 海の水って何だってこう塩からいンだ? なぁんてさ、そんなこと朝から晩まで考えてるもんだから、とうとう二つの目が、脳天に寄っちまったンだよ」

「ボクたちみたいにおよがないの?」

「ごちそうが、あっちから泳いでくるのを、じっとまってるんだ」

砂色のカレイが、砂にもぐったまま、黒い目だけをぽちぽちさせて、坊やをじっとみつめています。

〈おまえ、うまそうだな〉

「あっちの海草の林をみてごらん、赤ちゃんの魚たちがわんさといるよ。保育園だね、きっと」

「いってみようよ、おじさん」

「そばを通るよ。ほれ、みんなとろとろして、おひるねの時間だな。ボクもそろそろ、おねんねの時間かい?」

「もうしないの、だってボクもう、おとなだもん」

「そうだよなぁ、ひとりで北の海を冒険しようってくらいの根性だから、ボクはもうりっぱなおとなだ」