第一部酒編

それでは本場フランスでは、ワインはどのように飲まれているのでしょうか? まず私は、フランスに限らずヨーロッパの国々は、ひじょうに水質が悪いゆえに、飲み水が手に入りにくい土地柄と理解していました。石鹸で手を洗おうとしてもなかなか泡立たない、いわゆる硬水しか得られぬ地だと。

日本は北半球にあって温帯モンスーン気候帯に位置しますから一年を通じて雨量が多く、ゆえに豊富な地下水がどこを掘ってもすぐ手に入る。日本人は「水と空気と安全はただと思い込んでいる」と言われる所以です。

そこでフランス人はどうしたか。ブドウに水を飲ませ、そのブドウの果実からワインを醸造し、ワインを飲むことで飲めぬ硬水の代わりにした。このように理解していました。すなわちフランス人は、ワインを水代わりにがぶがぶ飲むといったイメージを抱いていたのです。

こんなフランス映画を見たことがありました。郵便物を集配中の郵便局員が、郵便物を取り扱っている街の何でも屋(ドラッグストアのようなものか)に郵便物を集荷にきて、「こう暑くちゃたまらん。一杯頼む」と店のオヤジに言うと、オヤジは当たり前のように、樽からワインをグラスになみなみと注いで差し出したではありませんか。

一息にグラスを空けた郵便局員、郵便物を預かることを忘れ、そのまま店を出ていってしまった。店の奥から、「しょうがない野郎だ」と言いながら出てきたのは、その郵便局員の上司。こちらはすっかり出来上がってしまっている。……フランスは何といい国だと思いましたね。

フランスのワインの平均年間消費量は、かつては約百リットルあったものが近年では約四十三リットルまでに減少したということです。四十三リットルってどのくらいの量なのだろう。早速計算してみました。

ワインのアルコール度数は十五度くらいでしょう。日本の清酒の度数とほぼ同じと考えてよさそうです。酒一升が一・八リットルだから、43 ÷1.8 ÷12= 2

ひと月二升という計算になります。月二升ということは、一日〇・七合。飲酒する人が全人口の半数と考えれば、フランスのワイン飲酒量は、ほぼ同じ度数と考えられる日本酒に換算して、多めに見積もって一日一合半ということになりますね。

「いたって健全ではないか」と思われた方は、酒飲み。私の妻に言わせれば、「あらあら、ずいぶん飲むこと。酒飲みはどこの国でも同じだわ」と、私を見やることでしょうね。ある調査ではフランスのワイン消費量は、一九八〇年では日常的に飲む人が約七割だったのに対し、年々減少し続け二〇一〇年には三割を切るという結果になってしまったとか。

フランスでも、年々ワインの消費量が減る一方だというのは、他国のこととはいえ寂しい限りではありませんか。日本でも清酒の消費量の減少傾向に歯止めがかからないと指摘されていますね。これはやはりどちらの国も若者のアルコール離れということが根底にあるのでしょう。