【前回の記事を読む】当たり前に患者に委ねられる「内科に行くべきか眼科に行くべきか」の選択の難しさ

第二章 眼因性疲労を知る

1 眼因性疲労(Oculomotor syndromes)とは何か

眼精疲労(asthenopia)すなわち眼性神経衰弱と神経衰弱とは違うのか

遠視眼は、眼球運動が最もリラックスするはずの遠方視のときでさえ、遠方の物体にピントを合わせるために調節を行っていますので、水晶体への調節作用が休まるときがありません。そのことから遠視は眼精疲労を起こしやすい眼といわれるのです。

多くの遠視眼は、遠方の景色の見え方に不自由を感じることが少ないのが特徴で、若い頃は視力自慢の人が意外に多く、学校などの一般視力検査では小さな視標まで読むことができるのであたかも正視のような印象を持っている人が多いようです。

若い遠視眼は調節力(眼の焦点のズレを修正して網膜上に合わせる力)が十分豊富にありますので「本来はピンボケになるはずの焦点位置」を自己の調節力で網膜上に合わせることができます。無意識に行われるこの調節は眼に備わっている自律運動です。調節を伴って遠くが良く見えることを“正視を装っている”と言うことができます。

したがって、遠視は精密な検査を行わない限り発見が困難なものです。

年齢を重ねるにつれて、調節力が衰えてきますから、次第に視力低下を来しているにもかかわらず、いつまでも自分の眼は良い眼だと信じ込んでいる人がいます。長年人生を共にしている自分の眼がまさか神経衰弱の原因になっているなどとは夢にも思っていない人もいます。諸々の神経症を「加齢のせい」として半ば諦めている人も多くいます。

神経衰弱に合わせる視格矯正法は若い人ばかりを対象にするのではありません。加齢による水晶体の硬化で調節能力は低下しますが、遠視眼の調節が止むことはありません。老視世代の中高年者、老年者ほど過剰調節による身体へのダメージが大きいと考えられるので、メガネによるケアを忘れずに行いましょう。

健康的な生活を送るために、遠視の人は積極的に適切なメガネを掛けましょう。掛けごこちの良い遠近両用レンズもいろいろ開発されています。

視格矯正メガネは常用するのが原則です。スポーツなどで装用が困難な場合を除き、室内で過ごす時間や食事、読書などの際には努めてメガネを掛けておくことが肝要です。

神経衰弱の原因が眼にあることを知らせるサインが我々の眼に十分に備わっていないのが残念です。遠視や乱視があれば肩こり、頭痛、腰痛などの症状を来すことが多いのですが、それ以前に眼が充血するとか、眼が痛む、涙が出るなどのサインでもあれば、その時点で眼に対しての対策を行うキッカケができるかもしれませんが、疲労の原因である遠視、乱視あるいは斜位などは、眼球及びその周辺においてはほとんどの場合、無自覚、無痛の場合が多いのです。

したがって肩こり、首すじ痛、頭痛、読書疲労などを眼性神経衰弱のサインとみなしたほうが良いのかもしれません。