海の絵
それは「いま、白昼夢の真中にいるのだよ……」と、脳の奥の方で誰かが言っているような気がしたからであった。
「暑かったのでしょう……」と再び、声をかけてくれた、その人の顔を見上げた時、美子は、ぼんやりとした意識の中で、夢の中から抜け出しているような、言葉では表現できないような違和感を持った。
「日傘が芝生の上にありましたよ……」と、言いながら、その人は日傘を拾い上げて陽射しを遮ってくれた。
その日傘に守られる自分の姿を意識しながら、美子は「いままで途切れていた記憶が……、そして、意識も正常な状態に戻っているような……」と感じながら、すぐに、「この方、あの日の彼だ……」と、声にならない声で自分に念を押した。
その後、美子は、ふと思い付き、「あ、お茶が……」と、言いながらハンカチに包んだぺットボトルの方を指さした。「良かった。お茶があったんだ……」と彼はほっとしたように言って、その包みを引き寄せペットボトルのお茶のキャップを外して手渡してくれた。
「ありがとう……」と言いながら、美子は、「そうだった。わたしはこの人の描いてる絵を見るために、この人に会うために、電車とバスに乗って此処に来たのだった。そう、此処は、あの日に来た白崎海岸だ」という確信を持った。
その後、「よかったら、もう一本ありますから、どうぞお飲みになって下さい……」と、言いながら美子は心の中で、「やはり二本買って来たのが正解だった」と自己肯定していた。