それから彼は毎日私をデートに誘う。一回食事でもしたら、諦めてくれるかな、私の考えは浅はかだった。彼と食事の約束をした。
「本当ですか、俺とデートしてくれるんですか」
「デートじゃなくて食事ね」
「先輩、愛し合う男女が食事することをデートっていうんです」
私は大きなため息をついた。
「誰と誰が愛し合ってるの」
「俺と沙優」
急に真顔で名前を呼び捨てにされて、胸がキュンとときめいてしまった。休みの日の朝、圭人と待ち合わせをして、ドライブに行った。圭人は運転中に私の手を握ろうとする。
「ちゃんと運転に集中して」
そう言って私は圭人の手をハンドルに戻す。
「沙優に触れたいよ」
「あとでね」と、かわす。
「本当にあとでね、約束だよ」
圭人はいつも少年のようにニッコリ微笑む。レストランで食事を済ませて、車に戻ると、圭人はエンジンをかけずにじっと考え込んでいる。
「どうかしたの?」
私は圭人の顔を覗き込んだ。その瞬間、圭人の顔が近づき、あっと言う間にキスされてしまった。チュッととしたフレンチキッスで、すぐに離れた。
「沙優は今から俺だけの彼女な、返事は」
私は思わず「はい」と返事をした。
それから三年間付き合いが続いた。そして、私と圭人は結婚することになった。ずっと一緒と約束したのに、結婚式の当日、圭人はバイクで事故を起こし、圭人の姿は結婚式会場にはなかった。
圭人が亡くなってから五年、私は恋愛に臆病になっていた。また、私は置いていかれるのかと……いや、圭人以外に愛する人は現れないと思っていた。圭人という枝にしっかりとしがみついて離れることはなかった。それなのに南條さんに惹かれている。叶わぬ恋と分かっているのに……彼には彼女がいるんだから、今日も彼女さんとデートだし。そう思ったら涙が溢れてきた。
私は南條さんにメモを残し、自分の部屋で毛布にくるまり眠った。涙が止まらない、もうごまかせない、私は南條さんが好き。私は寝られないまま時間だけが過ぎて行った。その時南條さんが帰ってきた。キッチンで音がする、私の作った夜食を食べている。
シャワーを浴びて、しばらくすると、私の部屋のドアの音がカチャっとした。南條さんが入ってきた。私を見て一言呟く。
「そんなに俺と一緒は嫌なのか」
大きくため息をつき、私を抱き上げた。そして、寝室へ運んだ。ベッドに下ろす時ギュッと抱きしめてくれた。そして私の頬の涙の跡にチュッとキスをした。
「沙優、俺を好きになれ」
南條さんはそう呟くと、寝室を出て行った。ドキドキが止まらない。どういうこと、何が起きたの、私の頭の中ははてなマークでいっぱいになった。