父の最上級のウソ
「困っとんじゃー めまいがする 血圧がひくいー」
泣きそうな声で遠くに住む娘に電話をしてくる
念のため近くに住む親せきに聞く
「どうしたん? 変わりないで」
心配してほしい父はいつもこの手を使う
異常がないことなんぞわかっているが90キロの道を走ってくる
言い聞かせて帰ろうとすると
「死にそうや 今夜は」と病を訴える
「救急車呼ぼか」と冷めた声で言う
「救急車なんか呼ばんでもお前がもう一晩おれば治る」
冬の凍てついた夜道を帰る子の心配も
家族をほってきている申し訳なさも
何もないことに腹を立てる
父との度々の攻防戦
「こんだけ弱っとうからうまい寿司が食べたい」
消え入りそうな声で言う
つい かわいそうになり、上等な寿司を買う
寿司を見るやいなや、ポンと日本酒の瓶を開ける
「あ〜 うまかった」満足して口元をほころばせる
ルンルンの後ろ姿に
私もいい加減学習してもよいのに
父の最上級のウソにいつも付き合わされる