赤ちゃんと過ごす二日目
そして、ここからは華ちゃんを過去の俺のところへ送り出すちょっと前のこと。
俺は十年前すごく不思議な体験をした。まだ独身だったおれは、未来の俺から娘華ちゃんを三日間預かってお世話したんだ。色々大変だったけど、今は亡きおやじさんに助けてもらいながら、なんとかお世話できた。このことは他人には話せない。ばかばかしい作り話だとか言われてそれらが矛盾だらけで理解できないだろうからだ。そんなの仕方ない、体験した俺でさえよく理解できていない。
この無謀な提案を奥さんに説明しなきゃならなくなったとき、そりゃ~大変苦労するだろうと思っていた。俺自身が過去にここにいる華ちゃんを預かった経験があるから大丈夫だからそうしよう。ってたとえ笑顔で話したって信じるわけがないだろうからな。
だから俺は過去に残しておいたはずの思い出たちを探すことにしたんだ。おやじさんが住んでいた家はいまはもう妹家族がリフォームをして住んでいておやじさんの遺品や俺の独身時代に残した物なんかは天井部屋にしまいこんであるのだった。そこを探せばそれらはあるはずだ。
「もしもし、俺だけど久しぶり元気か? 突然で悪いんだけどさ天井部屋の物で探したい物があってさ、いつなら行っていいかな」
「あら、ひさしぶり~お兄ちゃん。天井部屋? 何を探すの?」
「ほら俺さぁ十年前に赤ちゃん預かったことあっただろ、華ちゃんね。あのときの写真を見つけたいんだよ」
「えっ、何で今頃? それに華ちゃんはそこにいる華ちゃんじゃないんでしょ……」
「あれ、おやじさんから華ちゃんのこと聞いてないのか?」
「うん、何?あのときの赤ちゃんはそこにいる華ちゃんだっていうの~?」
「あぁ、そうなんだよ」
「ちょちょっと待って頭がおいつかない……全然理解できないんですけど、その話を全部信じたとして……なぜ今また昔の写真を探さなきゃならないの?」
「ほら、華ちゃんを預かってもらえないか?ってちょっと前に奥さんが連絡しただろ……あのことで結局どこもだめでさ、過去の俺に預けるしかないんだよ」
「えっ、今が十年前のあのときだって言うの? わけわからなくて頭パンクしそう……」
「そうそう、だから奥さん説得するのにあの写真が必要なんだよ」
「……もう、なんかよくわかんないけど。奥さんそんなので信じるかな……私なら何ばか言ってるの~って激怒するわよ」
「そうだろうなぁ~でも、これしかないんだ」
「そうなんだ……明日の夕方くれば? パパ帰り遅いって言ってたから」
「わかったよ、じゃあ明日退社したその足でそっちに行くよ」
「了解」
最近はなかなか連絡も取り合えていなかった妹に連絡しておやじさんの遺品などをさんざん探してそれらを見つけ出した。
「結構くだらない物残してあるんだなぁ~ゴホンゴホン」
天井部屋は妹家族が入居前にリフォームしたときに普段必要のないものなんかをしまいこんで以来ほとんど掃除されていないらしく……ホコリっぽかった。
「おかしいなぁ~俺の荷物の中にはないぞ、おやじさんのほうに紛れ込んだか?」