君と抱く
今日のおれは頑張った。来週からの出張に必要な書類の作成と出張中に同僚に代わってもらう通常業務の指示書まで完ぺきに終わらせた。
もちろん、クタクタだったけど足取りは軽い。なぜかというと、この半年間めちゃくちゃ忙しすぎてまったく取れなかった休みをまとめて取れて、明日から三日間の連休を思う存分使ってリフレッシュできるからだ。
定時で上がり、六時前にはアパートに帰って来られた。おれの部屋のドアを開けると玄関の板の間にバスケットに寝かされた赤ちゃんがいた。
「えっ、今の何だ?」
思わずドアを閉めて呟いた。
「おれは階を間違えたんだ!?」
いや待て違うな、自分の鍵でちゃんと開いたドアだったし、無意識ではあったが部屋番号もいつものように確認した。おれは見間違いだと思い直し、再びドアを開けた。でもそこには本当に赤ちゃんが置き去られていた。
「えっ、何でだよ誰の子だよ!?」
正直、頭が真っ白になっていた。そんなおれをよそに、可愛い赤ちゃんはバスケットの中でスヤスヤと気持ち良さそうに眠っていた。意識とはまったく別でおれの体は思わず座り込み、赤ちゃんのほっぺたをつっついていた。ぷにっぷにのプリンみたいに柔らかくて温かった。
頭の中はパニックだったけどおれは靴を脱ぎ、バスケットを持ち部屋に入った。しばらく眺めていると、赤ちゃんはこれまた気持ち良さげに少しのびをしたかと思うとまんまるく大きな目をパチリと開けておれに笑いかけてきた。
「あっ、起きた。笑った……泣かないんだな……おい、おまえはどこの子だ? なぜここにいるんだ?」
多分そのときのおれは笑い返せてなかったと思う。とっさに、おやじさんに電話をかけた。
「あっ、もしもしおれだけどさ。今さっき帰ってきたら家の玄関に赤ちゃんがいたんだよ。どうしたらいいかな?」
「何を突然おかしなことを言ってるんだお前。いつ結婚した? 隠し子か?」
突然、何の説明もなしに目の前の事実だけを言うおれに、おやじさんは冷静にいたって普通に返してくれた。おかげでおれも少し冷静になれた。