【前回の記事を読む】日本の働き手全体に「能力・スキル形成意識」が低いと判明…
第1章 これからの人材育成に動機づけ面接が持つ可能性
第2節 人材育成に関する政策の現状と現実的展望
8 Society 5.0社会におけるマネジャーの存在意義
前述したように、企業では従来通りの階層別研修やビジネススキル習得のための研修が主流です。また複数回答ですが、7割以上の企業がOFF―JTを自社で行っていると回答しています。まだまだ企業が行っているOFF―JTの多くは、自社企業での業務上のスキルアップや適応力を向上させる位置づけにあるとみていいでしょう。
同時に「指導する人材が不足している」、「人材を育成しても辞めてしまう」、「人材育成を行う時間がない」といった課題があがっており、内容や対象者や実施方法も見直す時期にきているのではないでしょうか。
では、Society5.0社会に向け、企業の中で「非認知能力」を開発できる人材育成はどのようにして実現すればよいのでしょう。これについては、2019年にリクルートワークス研究所が公表したマネジャーへのインタビュー調査をふまえた4つの提言(1)が参考になります。
1 部下への指導にこそ、ふんだんに時間を使うこと
2 思い切ってメンバーに任せる
3 本来業務に集中できる環境整備を怠らない
4 顧客への過剰なサービスはやめよう
この調査によれば、マネジャーの各行動と部署の目標達成率との関係をみると、マネジャーが部下に対する個別指導に多くの時間をかけることが、その部署の業績に良い影響を与えることがわかったそうです。
一方で個別指導の時間をかけても、マネジャー本人の労働時間や部下の労働時間に影響はないとしています。マネジャーはそれ以外の業務にかける時間を減らし、部下はマネジャーからの個別指導により、業務の処理時間を短縮できているようです。
この提言では、プレイングマネジャーであってもマネジャーの長時間労働が必ずしも担当部署の高い業績につながっておらず、マネジャーの本来の業務は部下の個別指導であると結ばれています。この調査が示唆するのは、マネジャーによる1対1の指導(対話)が、主体性や自己管理能力、実行力など、部下の非認知能力の育成につながる可能性があるということです。
提言にあるようにマネジャーの役割は人材育成であると改めて再認識することで、企業における人材育成の道筋がみえてくるのではないでしょうか。また、本来業務に集中できる環境整備を進め、顧客への過剰なサービスをやめることも重要な政策といえるでしょう。
海老原嗣生氏はその著書『人事の組み立て~脱日本型雇用のトリセツ~(2)』で、日本の労働現場を「二神教」社会と表現しています。
神様のうちの一人は上司(マネジャー)、もう一人の神様はお客さまです。顧客からの要望への非生産的な配慮が、残業を増やし労働環境を悪化させているとしています。
神様(顧客)からの要望の例として、営業時間外での打合せやメール応対、そして現場レベルだと商品の過剰包装等があげられるでしょう。過剰包装が行われているのは、少しの傷やへこみでもクレームの対象とされてしまうからです。そのためスーパーでは農家直販コーナーを除けば、まっすぐなきゅうりがビニール包装で売られています。
ささいなクレームをなくすために、本来不要な多くの経費および労働コストがかかっているのです。
しかし、近年SDGsが叫ばれるようになり、神様(顧客)の意識も少しずつ変化しているといえるでしょう。
(1)リクルートワークス研究所 働き方改革時代にマネジャーは何をすべきか―働き方改革の中間報告(2019)https://www.works-i.com/research/works-report/item/workingtime.pdf
(2)海老原嗣生(2021)『人事の組み立て ~脱日本型雇用のトリセツ~』日経BP