新しい時代の幕開け

1989年にベルリンの壁が壊され、冷戦が終結され、これが産業時代の終わりと一般には言われる。これに代わり始まったのが情報時代。情報時代の代名詞でもあるインターネットの台頭は正に怒涛の如く、それまでの人間の常識をまったく覆すものとなった。

その影響の一つとして、流通の中にいた人間における存在価値の大部分がカットされ始めていることを考えてみる。後述するが「世の中はすべて対人間」という変人ポーの考え方、このルールが根本から覆されることとなった。

例えば、人は海外にいてもスマホを始めとするあらゆる端末で日本の口座から別の口座に簡単に送金ができる。世界旅行をしながら日本の会社をスマホでリモート経営するなんて贅沢な人も出ている。マンションの契約はネット上でするようになり、音楽も配信サービスをサブスクリプションする時代。

これはつまり、銀行の入り口に立っているセキュリティーやATMを案内する銀行員、旅行会社のスタッフ、CDショップの店員、それらの店舗を訪れるまでに触れ合っていた人々、やろうと思えばこれらの誰とも会わずに済むようになってきている。どれも変人ポーが少年の頃にはあり得なかった話だという。

そしてこれは例を挙げるとキリがなく、テクノロジーが日々進化する今日に至ってはこの無人化サービスはいよいよ増えるばかりだ。

その上2045年問題として言われるのがシンギュラリティ(技術的特異点)。人工知能(AI)が人間の能力を超えることを言うが、いま情報技術産業におけるトップ企業がこぞってAIに多額の資金を投入して研究・開発をしているという。

この本はテクノロジー進化論を述べるものではないので、ボクは早めにこの話題を変えなければならないが、それでもここは避けられない。つまり時代はいま、人類史上始まって以来のとんでもないスピードで進化しているということである。

変人ポー曰く、20年ほど前のある時期にこのスピードのことを「ドッグイヤー」と表現していたという。これは、犬は人間の7倍の速さで年をとっていくことから、「いまの人間の1年は前と比べて7倍の速さで進化している」という意味である。

やがてドッグイヤーでは説明が追い付かなくなり、人間の18倍の速さで年をとるマウスから「マウスイヤー」と呼ばれるようになり、これらの表現ですら言われなくなって久しい。死語であるというのだ。

「とにかくいま、我々が生きるこの世の中は表現してもその表現すら追い付かなくなるほどに速く、且つ便利になっている。それは、とらたちの若い世代が父さんよりももっと強く、もっと激しくこれから体験していくことになる。そして、便利になればなるほど、失われていくものがある……

変人ポーはいつになくしみじみとそんなことを言っていた。ボクがそれは何かを聞いてもこのとき変人ポーは言葉を濁して話題を変えてしまった。