幾年月が過ぎたでしょうか。

いつしか年老いた彼女は、唯一友だちとなった逞たくましく成長した青年から、世話を受けるようになっていました。彼女の代わりに列車が到着する時間を見計らって、青年が駅まで向かうようになりました。

「きっと彼も随分、年をとってしまっているわね。もしかしたら、病気になっているかもしれない。もしもそうだとしたら、彼が列車に乗るのはきっと難しいわね。天国で会えるまで、待つしかなさそうね」

彼女はちょっぴり寂しそうに、まるで諦めてしまったかのようにつぶやきました。

「いや、ここまできたら、最後まであきらめちゃだめだよ。弱気にならないで。ボクもそのひとに会えるのを楽しみにしているんだ。さあ、元気をだして! おいしそうなものを買ってきたから、一緒に食べよう」

それからしばらくして、彼女はその青年に見守られながら、最期を迎えたのでした。何十年も彼の帰りを信じて待ち続けた彼女ですが、なんの後悔をすることもなく、穏やかなその笑顔のまま、天国へと旅立ちました。

彼女の最期を見届けた青年こそが、実は、彼女がずーっと帰りを待っていた、彼の魂の生まれ変わりだったのです。

青年自身は、そんなことは知りません。けれども、彼の魂だけがわかっていたようです。男の子に生まれ変わった彼は、待ち続けていた彼女のそばで彼女を見守り続け、いつしか心の支えとなり、できるかぎりのことをしてきました。そうすることでしか、彼女への愛を分かち合うことができませんでした。彼が選択した愛の創造だったのです。

「僕だよ! キミが待ち続けていたのは、僕だったんだよ」

彼はどんなに真実の想い、彼女への愛を、リアルに伝えたかったでしょうか。思いっきりすれ違いながら、けれども、信頼し合って過ごした年月は、ふたりにとってはかけがえのない時間だったのではないかと思います。

その後もふたりの魂は、幾度となく生まれ変わりをつづけてきたようです。そして20XX年、ふたりは再会のときを迎えます。

「やっと、あなたに会えました!」

彼女は偶然としか思えない状況で、遠い過去の記憶を手繰り寄せました。劇的な再会場面ではありませんでしたが、彼の穏やかでやさしい瞳の温もりと、そしてゆっくりと語られる口調とその安堵感に、胸の奥で何かが反応したのがきっかけとなったようです。

彼女の脳裏に徐々に映像として、ワンシーンずつ展開され始めたのです。そして、全体像を受け取ってしばらくしてから、彼に伝える決心をしました。

「あまりにも突飛すぎて、信じてもらえないかもしれませんが、やっと会えたみたいなんです! 受け取った情報を聞いていただけますか?」

あの時の帰りを待ちわびた彼に違いないと思った彼に、出会って数か月経ったときに、過去、生き別れになってしまった状況を伝えることができました。

「そんなことが、あったんですね……」

終始穏やかに話を聞いてくれた彼は、笑顔で答えてくれました。たとえ信じてもらえなくても、かまわないと彼女は思っていました。そもそも真実かどうかも確かめる術がありませんでした。けれども鮮明に浮かぶ映像だけが、何度も頭のなかに広がるのです。彼女は彼に伝えることができたことで、過去のわだかまりが解けました。そして、壮大な命の旅がつづいていたことを、感慨深く感じたのです。

「実はもうひとつ、あります」と言って、話を続ける彼女がいました。

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