このトップ会談から三日後、二回目となるトップ会談が行われ、その席上で武藤はこんな発言をしていた。
「あの官房長官を長くやって思いがけず総理になった元総理が就任早々に我々の仲間の楯岡さんを呼び出して、拉致問題を解決する妙案はないかと質したというエピソードを先生はお聞きになりましたか?」と言い出したのだ。
「いいや、その話は初耳だ。あれ、でも確かその総理なら官房長官と拉致担当大臣を兼任していたんじゃなかったかな?」山脇が言うと、
「そう、官房長官なら公安が集めた機密情報も内調が集めた極秘情報も法務省公安調査庁が集めた極秘情報にだって接する権限がある筈です。それなのに民間人の楯岡さんにお知恵拝借って、変でしょう?」と武藤が言うと、
「官房長官兼拉致担当大臣の時に拉致問題を進展させたとしても、所詮は時の総理のお手柄という事になってしまう、だから敢えて何もしなかった。
時折拉致被害者と面談して、拉致問題に取り組んでいる振りをしていたのかもしれん。それがいざ自分が総理大臣となった為、国民的に関心のある拉致問題を進展させる事で政権基盤を盤石なものにしようとした節があるかもな?
それでいて、その気になればいつでも情報が得られる、政府関係の情報機関ではなく、ライフワークとして拉致問題に取り組んでいる楯岡君を呼び出して何か情報を得ようとしたのかもな?」と山脇が推理してみせた。
「先生、だから私は総理大臣でさえ頼りにするくらい拉致問題に精通している楯岡さんを拉致担当大臣にするという人事案を、連立を組む際の条件にして、選挙戦でも全面的にアピールしていこうと考えています、如何でしょう?」と山脇に意見を求めた。
「……確かに有権者への訴求力はあると思う。他にも人選しているのかな?」と山脇が返すと、
「尖閣問題への対応として、海洋権益のエキスパートと言われている日本海洋大学教授の佐山明彦教授を、いきなり海上保安庁を所管する国土交通大臣にするのは無理難題なので、尖閣諸島問題担当という特命を付けて、国土交通副大臣へ押し込もうと思っています」と言って武藤が口元に笑みを浮かべてみせた。
「なるほど、国家戦略企画研究所内で語られている事を実現して行こうという訳だ、有権者への訴求力も『拉致問題』『尖閣問題』に切り込む訳だから否が応にも増すって事か、中々の戦略じゃないか……」と言って武藤の企みを山脇は褒めてみせた。そしておもむろに、
「防衛副大臣に国家戦略企画研究所の統合幕僚長経験者、火村君も人選して貰えないだろうか?」と山脇が注文をつけてきた。
「あっ、それもいいですね、早速人選の中に入れたいと思います」と武藤が即答した。
こうして二回目の極秘トップ会談は行われた。