世界一と誇る公園内の水族館を見物した、他國には類の無い珍らしい美しい魚類の中でもBlue Yellow. Braunoerag Wheitwなどは最も美しかつた、其他日本の金魚や緋鯉も見出された、胴の廻りが一尺餘の大鰻と、珍らしいスツポンの類や二三尺もある大きい伊勢海老も珍らしかつた。

この公園の周圍一面に棕櫚や椰子、其他名の知らぬ熱帯の樹木が繁茂してゐる、街路の坦々たる並木の間々に美しく赤い花や、純白の花で飾られた廣い庭園(ガーデン)の中に幸福そうに見ゆる美しい西洋館が散らばつてゐる其の天惠豊撓な美の住家に、米國で有名な小説家、ジヤツク・ロンドン氏は一年餘も滞在してゐたとの事である、再び西方二三哩もあるサンデーモン氏の庭園を見に行つた、サンデーモン氏は布哇(ハワイ)屈指の金滿家で、其の庭園は布哇(ハワイ)王宮の庭園の跡で、古木大樹が恰も原始の狀を現してゐる、日本人の園丁の案內で、日本式の喫茶店や日本式の庭園や別墅(べっしょ)の大規模で贅澤なるに(いささ)か驚いた、この材木及戶障子の(ことごと)くは日本から取寄せた物で、其の價格が七萬弗からかゝつたとの事である、日本古畵の軸幅から、置物から、一切何から何迄純日本式である、廣々した靑疊の上に端座した時は、なんとも云へぬ異鄕の懐味(なつかしみ)を感じた。

この布哇(ハワイ)全島に於ける、日本人の發展は實に旺んなものである、目下布哇(ハワイ)の總人口は二十餘萬で其內同胞は約九萬も居る、單にホノルゝ市のみでも同胞が二三萬人もゐる、明治四十一年度彼の移民條約改正以來殆ど契約移民の上陸は絶對(ぜつたい)に禁止され、現今は子供や妻を呼び寄せる以外は出來ぬが、旣に布哇(ハワイ)全島に(わた)りて八九萬餘も移住してゐる、同胞は氣候の宜いのと、金の取れるので天然の樂土として、故鄕に歸還する者が極めて少いから人口が殖へるのみである。

そしてこの美しい天惠の樂園には、世界の隅から隅へと集合したそれぞれ生活の敗衂者なる、疲れきつた廿七箇の人種が、氣候の温和と暢氣な、極めて單調氣樂な暮しが出來るので、この太平洋上のエデンの園を理想の住家として永恒に其の子孫を殘してゐる。

この島に長く住んでゐる多少智識階級に属する人逹の話によれば、彼等の最も苦しむのは餘りに其の生活が單調なので、なんとも云へぬ陰欝な氣分に惱むことである、この天然の樂園にも人間の惱みが絶えないところは、やはり人間らしいところであると泌々感じた。

【前回の記事を読む】「風が違う。光が違う。匂いが違う...」生まれて初めて見るハワイ島