一週間は、あっという間に過ぎたが、美子は、その間、机の前に座っていても、なんとなく落ち着かず、「わたしも白崎海岸へ行きたい、という思いが胸を駆け巡っていたような気がする……」と、思い始めた。
その思いに急かされるようにして、美子が、前回と同じ時間の電車に乗って白崎海岸へ行こうと心を固めたのは、彼が言っていた日曜日の朝であった。
それは「比較的涼しい一日になるだろう」と天気予報の出ている九月の中旬であった。
「電車で白浜から目的地の白崎海岸へ行くには、特急電車に乗り、御坊駅で普通電車に乗り換えて、由良駅で降り、その後、バスに乗り換えなければならないが、唯一、それしか交通手段はない。でも、わたしは……」と、呟きながら、美子はこのような交通手段は旅行気分に浸れるから小さい頃も好きで、父や母が買物に出かける時には、「電車とバスに乗ってだったら、ついて行きたい……」と、何時も言っていたと、急に子供の頃のことを思い出した。
その後、「それに、あの頃からの考えは、ちっとも変わっていないということは言い換えれば、わたしは少しも成長していないということなのかしら」と美子は、ほかの誰かに尋ねるように自分に問いかけながら、「三週間前にも行ったのに……」
などとは微塵も思っていなかった。
電車が駅を出て暫くすると、車窓に迫るぐらいの位置に雑木の林が続き、それぞれの葉が電車の風圧で激しく揺れるのが手に取るように近く見える。其処を通り抜けると田畑が広がっていて、稲穂が晩夏の陽の下で黄金色を誇っているのではないかと思わせるほど光っている。
その向こうには、小高い山が長く連なってあり、その反対の左側には黒潮特有の蒼くて、穏やかな海原が視野いっぱいに広がっている。その、ところどころには小さな島が幾つも見えるし、周囲が白く波立っているようにも見える。海鳥も翼を広げて多く翔んでいる……。
それらは美子には、見慣れた景色ではあるが、その日は、初めて見るような新鮮な気持ちで、じっと目を凝らしていた。