長い英語の道

第2次世界大戦で連合国を相手に戦争をした日本は、1945年8月無条件降伏。その敗戦直後、日本中の国民は虚脱状態だったといわれる。しかし1951年サンフランシスコ講和条約締結によって国際社会へ復帰することになったのだが、その数年前からアメリカの統治下で民主主義をはじめ、さまざまな社会形態をアメリカナイズさせていった。

その背景に英語学習ブームがあったのであろう。敗戦からの復興に忙しかった日本では、国際社会への仲間入り、すなわち戦勝国のアメリカやイギリスの文化の取り込み、英語圏への留学など国際社会への復帰に英語は必須条件だったはずである。

昭和21(1946)年から5年間続いたNHKのラジオ番組「英語会話」(通称カムカム英語)はNHKの人気番組であったという。講師は滞米生活19年の経歴を有する平川唯一(1993年8月没)で、敗戦直後の混乱と虚脱状態にあった日本中に明るさを与えたという。

私はその英会話番組のテーマソングには聞き覚えがあるが、講座は聴いていなかった。当時田舎はもちろん、都市でもその英語テキストは入手困難であったという注2

そんな英語ブームがある一方で、英語だ、英会話だと騒ぐミーハー族を一喝するかのように、「英語などできるようになりたいと思うな、諦めた方がいい」とばかりに吉田健一氏はその『英語上達法』で言い放ったのである。

この英文学者のエッセイ集は英語という言語の奥深さや英語教育・習得の難しさを説く、きわめて示唆的な本であって、「英語上達の方法を説く本ではない」ことは著者自身がその前書きで断っている。


注2)平川洌著『「カムカムエヴリバディ」の平川唯一』PHP文庫2021年