「おとうとがほしい」
最初にそう呟いたのは、4歳の頃。まだ一時保育に通っていた時期だ。一時保育のクラスには私より小さい子がたくさんいて、お姉ちゃんになれたらどんなに楽しいだろうと思った。
「おとうとができますように」
手のひらを合わせて、下を向いて、お願いする。膝をつく場所は扇風機の前。右を向いたり左を向いたりする扇風機を追いかけて、首を動かしながら毎日祈った。
5歳の秋に生まれてきたのは、男の子だった。
「れいと」
赤ちゃんはみんなかわいいと思っていたけれど、弟になる赤ちゃんは特別にかわいかった。お姉ちゃんになったのだという実感が、胸の中にじわじわと広がっていく。
「ママにね、あかちゃんがうまれたの!」
「ひめかにおとうとができたんだよ!」
もう他に聞かせる人がいないというくらい、知っているほとんど全ての人に玲人のことをたくさん話す。生まれてくる前から、頭の中は弟でいっぱいだった。保育園から帰るとすぐに
「れいとただいま!」
と側へかけよるのが日課になった。
玲人が生まれて半年後。来年に迫った私の入学のために、小学校まで歩いて10分のところへ引っ越した。私、母、父、玲人の4人家族の新しい暮らしが始まる。