今なら保護者が黙っていない…中学時代の教師が生徒にやらせた「人権に係わるおかしなこと」
春の息吹
【最終回】
相木 鍾三
主人公小林明夫の中学から高校、大学、社会人時代の
遙かな青春を緻密な筆致で描いた六篇。
中学生の明夫は、友人と火薬作りに挑戦するが、
危うい事故が発生。さらに友人は……。
(第一話 少年たちの庭)
高校時代。明夫の守護神ともいえる遥子との日々。
だが遥子と同じクラスの美しい女子高生は謎の自死を遂げる。
その謎は長らく不明だったが、十数年の後、ようやく明らかに……。
(第二話 純潔と熱情)
経済発展を続ける日本は「モーレツ社員」が幅をきかす時代だった。
しかし過労で心を病んだ青年は……。
(第四話 若葉荘再見)
※本記事は、相木鍾三氏の小説『春の息吹』(幻冬舎ルネッサンス新社)より、一部抜粋・編集したものです。
第三話 熱い石ころ
四
「先生、側転でラインを越えたけど受かるだろうか」
「心配するな。大きな図体して」
教師はめんどくさそうに言うとくるりと背を向けてしまった。発表まではまだ時間がある。
常雄は暇潰しにその坂道の横のコンクリートの乾いた溝に丸い小石を転がし始めた。
「いいか。こいつが下まで転がっていけば合格だぞ」
彼はピンポン球ほどの石を溝のなかにポンと投げ込んだ。石はしばらく転がってから傾斜が緩やかなためと溝のなかにまで垂れ下っている芝生のため遮られて停止した。
「ちぇ、滑った。今度はお前のを占ってやろう」
明夫は笑いながらそれを見守っていた。
「おっ、調子いいぞ」
投げ出された石はついさっきの石の脇を越えて下まで転がっていくかに見えた。
「ああ、やっぱし駄目か」
石はやはり途中で止まってしまったのだ。