ブログ始めちゃいました(^_^)v
彼は交互にネクタイを喉許に当て「きみはどちらが好き? きみが選んだのを買おうかな」と鏡の中の私に話しかけた。
(私に選んで)と聞いて我に返り、なぜか(彼に似合うのを選ぼう)と急にプロ意識が目覚め、彼の前に立ち二本のネクタイを交互に胸に当ててみた。
鏡に映ったものは照明の反射具合で実際の色と少し、ほんとに微妙だけどちょっと違う。
考えあぐねていると「2本とも買おう、ホールに着いてからどちらかを選ぶよ」とニッコリ笑った。私も彼に引き摺られてニッコリ笑った。名前も知らない人なのに、二人の心が急に近づいたように感じた。
31 なめ子 20xx/xx/xx xx:xx
マハ・ラジャーさん、元カレってどんな酷い男だったの? どうやって命を助けられたの? 興味ある~ゥ!
32 Nowhereman 20xx/xx/xx xx:xx
なめ子ちゃん、きみはまだ若いよね。だからこれからの人生、いろいろな選択ができると思う。
僕はこの年になってどう生きればいいのかわからなくなってしまった。
定年になって子どももいなかったから、妻と二人で老後を楽しもうとキャンピングカーを買って日本中を旅しようと思っていたんだが、唯一の話し相手だった妻が認知症になってしまったようで……途方に暮れている。
先日の夜中、妻が布団の中で呻いているので「どうしたの」と抱き締めると、目を開けびっくりした表情をして僕のことを汚らわしいものを見るみたいにして、両手で力一杯突いてきた。
それで次の日電話で妻の友だちに相談したら入院させたほうがいいと言われ、昨日入院させた。入院するとき一瞬真顔になり「戻って来れるわよね?」と訊いた。
入院させるとすぐに妻の友だち4人が見舞いに来てくれた。まだら認知症なのか友だち4人は認識しているようだった。妻のベッドを囲み、皆で会話していた。
僕が茶を入れていると一人が「優しいご主人ね、安子ちゃん」と言うと「ええ、とてもいい主人でした」と答えた。そして「少し出っ歯だったからキスがしにくかった」と笑った。
(えっ)とした表情の女性が「ご主人は出っ歯じゃないよ」と言うと皆で笑い「とてもいい主人でしたって、ご主人、よかったわね」と一人がこちらを見た。
もう一人が「『でした』って、亡くなっているみたいじゃないの」と笑った。「安子ちゃん、ご主人はあそこで私たちにお茶を入れてくれてるわよ」と言うと、妻は一瞬間を置いて「いえ、主人は死にました」と答えた。
もう一人が「ご主人はほらあそこに」とこちらを指さすと、皆がこちらを向き笑った。笑わずに僕を見た女性と目が合った。目が合った瞬間その女性はぎこちない作り笑いをしたように見えた。
妻のほうを見ると彼女は遠い目で宙を見つめ「主人は死にました」と繰り返し、涙をこぼし始めた。
先日僕を汚らわしいものでも見るかのようにしたこともあり、友人たちの気まずそうな雰囲気に、僕はいたたまれなくなり「ごゆっくり」と言い、近くのテーブルにお茶とお菓子を置いて病室から出た。