「社長、誠に勝手を申し上げますが、万鶴の専務を辞めさせてください。ひろしま食品はこのままでは倒産します。私が社長になって、ひろしま食品を立て直します」
「馬鹿なこと言うな。お前が社長になっても、ひろしま食品は潰れる。そんなことは前から判っていた。意地を張らずに、潰してしまえ」
「いや、絶対に潰しません」
「潰さん言うて、どうやって潰さんのや」
「……」
「ほれ、みてみぃ。手立てが無いじゃろうが」
「お願いがあります。ひろしま食品の株の全てを無償で引き受けてください。そのうえで、私が社長になって仕入先を一社一社回り、一時的な支払いのジャンプをお願いし、二年以内には必ず正常化させます。そして三年後には株を有償で買い戻します」
「何のために、価値も無い株を引き受けるんや」
「ひろしま食品の信用のためです。そして、私の不退転の覚悟のためです」
「ふ〜ん。そんなことしても、ピンハネ・ビジネスは絶対に失敗する」
「いえ、必ず立て直しますから、やらせてください」
「無理じゃ。儂がやっても、今のひろしま食品は立て直せん」
「社長が無理でも、私がやって見せますから、やらせてください」
「よし、そこまで言うんなら、やってみい。上手くいかんかったら、万鶴に帰って来い。お前の席は空けておいたる。マルナカ商事には、儂からもよう頼んどく」
「ありがとうございます。でも、申し訳ありませんが、恐らく万鶴には戻りませんから、その時は勘弁してください」
社長の家を辞した恭平は、父親と弟に電話をし、自らが社長になる決意を告げた。