じっと待つ……。
しばらく目を閉じていたら森の上で風がふわりと吹き、サヤの頬を撫なでていった。たしかな風の感触に、大きく目を見開く。吹き抜ける風を抱き込むかのように両手をめいっぱい広げた。
雲の動き、木々の音、風の涼しさが一斉になってサヤの体を包む。
(―これだ!)
すかさず観測器を目元にかざし気を集中させると、胸で熱いものが踊った。
「……読めた!」
櫓の真下をのぞきこんで、声を張る。
「カズマ、天気! 天気読めたよ! 今日は北西の風二メートル、昼間は気温高めの晴天、午後から夕方にかけて雨雲が出て一気に寒くなるよ! カズマ、変なもの食べたらお腹壊すから気をつけてね!」
「バッキャロウ! 変なもんとか食うか、バカサヤ!」
カズマと呼ばれた少年の怒声にサヤはまたもひっくり返りかけた。黒髪イガグリ頭の彼は真っ赤になって眉を「逆八の字」に寄せている。
「でもカズマ、十三歳の誕生日に機械兵の油飲んで死にかけたって……」
「あん時ゃ腹減りすぎて見境なくしてたんだよ! 黒歴史掘り起こすんじゃねぇ!」
櫓の上まで飛んでくるカズマの怒鳴り声。手で塞いでも耳鳴りが残る。こちらを見上げるカズマの顔はまばゆい初夏の日差しに照らされ余計に赤さが際立っている。
(ベニカブそっくり……)とサヤはひそかに野菜にたとえてみた。
ごつごつした顔がちょうど村の作物みたいに角張っていて愛嬌があるのだ。カズマがひとしきりガミガミし終えた頃を見計らい、サヤは空見櫓から降りた。
「えへへ、待たせてごめんね、カズマ」
指をもじつかせながら上目がちに言う。相手の背丈はサヤより頭二つ分ほど大きいため今度は自分が見上げる形になる。……笑ってごまかせたりしないだろうか?