2008年

フランスの時間の流れはゆったり

四月に入り西フランスでも春がやってきた。街道沿いの樹々に緑の若葉が付き、日ごとにその緑が増えていく。

今週から夏時間になったこともあり、日没時刻が午後八時半過ぎになった。特に晴れた夕空の下、仕事を終えて車を走らせて帰宅するときは開放的な気分になり、何やら心まで軽くなった気がする。

春先のフランスの田舎道のドライブは快適である。村(町)の中心には必ず教会がある。とがった屋根が目印で、教会の近くには役場、郵便局、そしてカフェやバー、TABACというタバコ店などがある。

休日の天気の良い日にはこうした田舎道をあてもなくドライブして、気に入った村に着くと車を停めて散策する。村人は気さくで、初対面の私にもボン・ジュールと挨拶してくれる。今は菜の花が黄色いじゅうたんのように咲き乱れている。

アパートの目の前に公園がある。フランス人は公園をとても大切にする。夜間は出入り口に鍵がかけられ、人が入れないようになっている。

芝生や花壇はよく手入れされ、人々は芝生に寝転んだり、楽器を演奏したり、ベンチで新聞や本を読んだり、思い思いに過ごす。私も週末、ときどき文庫本を持ってこういう公園に行く。

フランス人は散歩が好きだ。カップルはもとより老夫婦が手をつないで歩いていたり、若い夫婦が子供を乳母車に乗せていたり、中学生や高校生くらいの子供もいっしょに家族そろって散策したりしている。そういえば家族で散歩したりする光景を日本では見かけない。

フランスではそもそも散歩がしやすいように公園、街並みが整備され、石畳や歴史的建造物が維持されていて街の景観を美しくしようと努めている。カフェがいたるところにあり、散歩の途中でコーヒーを飲むことができる。カフェでは店の人から文句を言われずに何時間も過ごすことができる。

行列を作って買うパン屋さんでは庶民の会話がある。いつもはバゲットを一本だけ買う私がある日たまたま日本へのお土産にバゲットを五本買ったことがあった。「あら、今日はずいぶんいっぱい買うのね」などと言われる。

誰に対してもこうした会話が交わされる。そういう会話が長引いて待たされても、後ろに並ぶ客は文句を言わない。

町のお店での買い物はこういうものだというのがフランス人の感覚なのだろう。こうして過ごすフランスの日常の時間は日本よりゆったりと流れている気がする。人生の送り方に関しては、残念ながら日本はフランスと比べて貧しいと思わざるを得ないのである。