第一章 子どもの地頭力を鍛えるためのトヨタ式
「モノ」から「コト」へ
トヨタでは、「やってなんぼ、観てなんぼ、観てもないのに、モノ言うな!」との現地現物のカルチャーの大切さを表現したオモシロ標語がある。子どもに「モノ」を与えるのは消えゆくひと時の出来事であるが、経験の「コト」は、半永久的に体の潜在記憶に残り、人生の楽しみが倍増し、必ず幸福へと導かれる。つまり経験の集積は、人生のアドバンテージを得る秘訣である。
トヨタ式では、「危険を伴わない失敗を、どんどんさせよう!」と言われる。
あえて失敗の経験をさせることにより、本人の問題解決能力を向上させる。
安全上問題のある場合はもちろんNGであるが、それ以外は、本人の気がすむまで、とことんやらせる。家の中では、やりたい放題で大丈夫と考える。あまり目くじらを立てないで、細かいことを指摘しない包容力をもつようにしよう。そして子どもに、「楽にいこうね!」と言おう。
さらに良くしようと思って取り組む未知なる挑戦による失敗は、すばらしい宝物となり、将来の飛躍に必ず直結する。初めからうまくいくなんて、あり得ない。積極的なトライによる失敗は、決してムダになることなく、称賛に値する。
また失敗は、多少のまわり道ではあるが、実は地頭力と人間力アップには欠かせない経験だ。真面目な道草は、子どもの成長の肥やしとなるのだ。思い切って、ハシゴを外そう。必ず、光明は見えてくる。できそうなことだけをやらせると、親の能力を超えない。つまり、自分のクローンしか育成できないと考えた。
ではどうしたら、失敗を恐れずにトライしやすくなるのか? 親の数々の失敗談をごく普通に伝え、身近にいる親が、幾多の失敗を繰り返してきた失敗の達人であることを強調し、親のポンコツぶりを認識させた。自らバッターボックスに立って、フルスイングの空振りのありのままの姿を見せよう。
すると発展途上の親を見て子どもの気持ちが「楽」になり、臆病にならないで、何事に対しても平気でトライするようになる。思考停止に陥ることなく、積極的に行動をするようになるのだ。また、あえて人前で少しだけ恥ずかしい経験をさせると、それがバネとなり、早く確実に積極性が身につくものである。
人間は、厄介なトラブルを、早く隠したい、フタをして幕引きを図りたいとの逃避の心理が働く。実は、臭いものにフタをしてしまうと、中身から腐ってしまう。逃げることなく困難に立ち向かっていった経験の集積が、大きな自信につながるのだ。
数々の修羅場をくぐり抜けてきた百戦錬磨の上司から、「問題のない現場なんて、どこにも存在しない!」と、ド迫力の指導をされた。
トヨタでは、ライン停止などにより莫大な損失を生じさせてでも、「後工程に絶対に不良を流さない!」つまり、「品質は工程で造り込む」という「自働化」の思想がある。自動の「動」ではなく、「働」を使用しているが、ハタラクとは、ハタ(傍ら)の人をラクにさせて役に立ちたいという意味合いである。生産性よりも、クオリティーを高めることが優先される。このトヨタ品質の日々の蓄積が、トヨタブランドをつくり上げた。よって、人の役に立つことができればブランド人間になれる。
また、トヨタの現場では「よく止めた表彰」なるものがある。現場を知り尽くした匠の伝道師は、「失敗は、良いことなのだ!」と、体に染み込むまで現地現物で急所を教える。なぜなら、失敗を逆手にとって本領発揮のカイゼンをすると、以前よりもさらに良くなるからである。正に、「怪我の功名」であり、可能性が開花する。
よく「忙しい」との嘆きを聞くが、カイゼンをしないから、忙しくなっているのだ。忙いのは、それが原因ではなく、日頃の怠慢による結果であることを認識したい。
連続する失敗を観察していると、失敗の質がグレードアップするものだ。よって上司は、部下の勇気あるトライを、ベタ褒めしなければならない。すると、部下はまた次の挑戦をしてくれる。